最初からそこにある音楽:大友良英 ONE DAY EMSAMBLES

東京国立近代美術館で『14の夕べ』なるイヴェントが開かれている。このイヴェント、音楽関連のプログラムに限って言うなら、普段なかなか見ることのできない大物(?)アーティストが選ばれていて(音楽以外は疎くてわからないけど)なかなか興味深い。小杉武久、一柳等。しかも入場無料(!!)でビールや食べ物の販売もあるので、ちょっとしたお祭気分で覗きに行くにはちょうどいい。ほんとはそれぞれのプログラムを見たいところだったけど、今回はスケジュールの都合上(偶然にも? 幸運にも?)「大友良英 ONE DAY EMSAMBLES」だけをふらっと(まさにこの感覚がオレは好きなんだよ)見てきた。出演者は以下。大友良英、秋山徹次、石川高、梅田哲也、大口俊輔、木村仁哉、Sachiko M、鈴木広志、テニスコーツ吉田アミ、千住フライングオーケストラ。

 

会場に着いたらさっそく屋外の建物玄関前でテニスコーツのふたりが練り歩きながら演奏する姿を発見。その周囲では千住フライングオーケストラの凧が飛び交っている。7月に隅田川のほとりで見たテニスコーツ・ライヴの記憶が蘇る。前庭でも誰かが演奏している模様。会場の様子を窺いながら演奏に耳を傾けていると旧知の友人に遭遇。その後も何人かの知り合いに出会たり、出演者もなんか大友ファミリー(?)が集まっているから同窓会的で楽しいぞ。

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室内に入ると、メインの会場はもちろん、エントランス・ホールや通路も分け隔てなく演奏場所になっていた。外の蒸し暑さとはうって変わって室内のコンクリートのひんやりと冷たい感触とどこからともなく聞えてくる楽器の音に癒される。音の源を辿ると大きなメイン会場の片隅で石川高が笙を吹いていた。そうこうするうちに外からは大友さんのエレキ・ギターの音が。出てみるとアンプに繋いでソロでギターを演奏中。リヴァーブの効いた音がさらに建物の壁に反響して夏の夕空に広がっていく。いい感じ。そこへアコーディオンが加わって即興のセッション。

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再び室内にもどって会場を散策(?)していると、メイン会場の裏の方にある薄暗い通路みたいなところでひとり静かにアコースティック・ギターを演奏している人がいる。お、秋山徹次だ。これが素晴らしかった。デレク・ベイリーがブルースを演奏しているようなものもあれば、ラ・モンテ・ヤングみたいなドローン(暗くてどうやって音出してのかわからない)もあった。オレが何よりもギターの音が好きだってのもあるけど、秋山さんの奏でるギターは、まるでギター自身が語り秋山さんはその声に耳を傾けているようだった。そんな不思議な演奏にしばし酩酊。

 

外の通路に出るとテニスコーツのさやが外国人の男の観客となにやら歌っているのを発見。その男、声楽の勉強でもしているのだろうか、もしかするとあるいはプロなのか、オペラ歌手よろしく美声を披露。それに合わせてさやがハモるというセッションが始まった。最初は気づかずに素通りしていた客も、何事が始まったのかと人だかりの輪を作るのだった。

椅子に腰掛けて休んでいると、今度はアコーディオン、サックス、チューバによるトリオ(後で知ったが、彼らはチャンチキトルネエドのメンバーだった)の演奏がはじまる。実はこの日、一番目立っていたのが彼らで、民族音楽風のメロディがなんとなくお祭気分を盛り上るのに一役買っていた。で、彼らの演奏に聞き入っていたその時である。いきなり耳元でチープな機械音が。ビックリして振り返ると手回しオルゴール片手にいたずらっ子のように観客の背後からそっと近づいてオルゴールを回す大友さんだった(笑)。

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もうひとつ印象的な演奏(というかハプニング)。通路には先ほどオレも座っていた木製の小さな椅子がいくつも置かれているのだが、その椅子を使って大友さんが即興のオーケストラをはじめたのでる。演奏者は観客。最初からいなかったのでわからないが、おそらく大友さんが簡単なルールを客に指導して、彼の指揮によってその場で客が演奏をしていたのである。大友さんの指揮にあわせて椅子を床に打ちつけたり、引きずったり。即席ではじめたオーケストラだが、なかなかどうしてちゃんとした合奏に聞えたぜ。

 

終演時間が近づくにつれて出演者はメインの室内会場に集まってきたようだった。倍音の持続音が響いてくるかと思えば、千住フライングオーケストラの発振音が聞えたり、物と物との接触音(規則的だったり不規則だったり)が聞えたり、吉田アミがブツブツと何事かをつぶやきながら歩き回っていたり、こんなにもバラバラな音楽的バックグラウンドを持つ演奏者たちが脈絡なく演奏する。これを雑音と取るか、それともひとつの合奏と取るか、それもまた聞き手の感性にゆだねられている。オレはそこに不思議な調和が生まれ、ひとつの世界が生まれたように思う。確かに脈絡の無さはあるけれど(反面、妙な馴れ合いもない。 この点意外と重要だ!)、そのせいか異次元の世界に迷い込んだようなにも感じた。

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大友さんの、いわゆる「アンサンブル」スタイルの演奏はここ何年か様々な場所や機会で演奏されてきているもので、もともと大友さんの原点であるノイズ・ミュージック的要素とジャズへの回帰が融合して、それがさらにいい意味で徐々に崩壊し融和し、形式を超越した演奏に発展していったもの。演奏形態も場所も決まった型にはまらない。しかも難解で壮大なコンセプチャルな意図によって型を壊そうとしたもの(それもまたひとつの型だ!!)でもないことが魅力だ。これはほんとう大友さんだからできるって思う。グランド・ゼロの頃から、アノードやカソードといった実験的試み、ジャズ・オーケストラ、そしてサウンド・インスタレーション、音遊びの会と変遷、逡巡、探求を続けてきた大友さんがついにここへ行き着いたか、って感もする。あと、やっぱりテニスコーツの参加が大きいよね。例えばオレは秋山徹次やSachiko Mの音は好きだけど、こうした同時多発演奏には必ずしも適していないと思うんだ。けど、そこを他の演奏=パフォーマンスとつなげる触媒の役割を果してたのがテニスコーツだったんじゃないかな(ああ、オレあらためてテニスコーツの偉大さを痛感)。

 

この日の演奏を聞いて、斬新とか実験的音楽ってなんだろうと、ふと思う。アーティストとか偉そうなふりしてるヤツの音楽がナンボのもの?と思ったりするんだよねぇ。このイヴェントに先立って大友さんがツイッターでつぶやいていた。「皆さんの聴きかたで自由に音楽を見つけてください」。そうそう、どんな音楽も“作られる”以前に最初からそこにあるんじゃないかって。オレたち(ってのは作曲家も演奏者も聴取者もすべて)はただそれを発見するだけなんじゃないか。さらに言えば自由であればあるほど音楽は発見できるんだよ。なーんて、そんなこと言うオレこそ偉そうだな…。

 

追記:文字通りふらっと行ったのでこのイヴェントの趣旨とかよくわからなかったんだけど、プログラムに説明とかあった…けど、まどろっこしいのでよく読んでません。ただ大友さんの回は『INVISIBLE BORDERS』っていうタイトルが冠してあったので、それはどんな意味なんだろうとちょっと考えたけど…今のところ明確な答えは浮かばず…。たぶんこの後もその意味など深く考えないと思う。もしも知ってる人いたら教えてください。