a bit like you and me...:奈良美智展

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奈良美智の熱烈なファンというわけではない。でも、なぜか彼の絵に惹かれる。そして今展覧会のタイトル『君や僕にちょっと似ている』を耳にしたとき、ビリビリッと音がして回路に電流が流れた。まさに奈良の絵を象徴している!!と。そー、そー、そーなんだ。そして理屈はどうでもいいからとりあえず彼の作品に触れてみたい。そんな欲求に駆り立てられて横浜美術館まで見に行った。でも考えてみれば、絵だけで人にそんな感情を引き起こさせるなんてスゴイな。うん、スゴイぜ。

 

展示室に入る前、エントランスで巨大なセラミック製の少女像がお出迎え。

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展示室に入って最初に現れるのがブロンズ像作品。これが今展の目玉といってよい。照明は薄暗く落とされ、作品だけを照らし出している。にわかファンのオレはこの重厚な作品にちょっと面くらった。だって奈良美智にはポップなイメージしか持ち合わせていなかったんだもの。この時点でオレにとっての奈良のイメージは完全に覆ったよ。でも、この彫像作品は実に良かった。なぜなら、彫像をきっかけにそれ以降に続く絵画を見る視点は明らかに変わったから。物体としての厚みは直接的、具体的に感情の厚み、複雑さ、多面性というものを提示している。いつも目にする少女(=奈良の分身)の背後に隠された複雑な感情を探る楽しみがここで得られた。

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次に現れたのは奈良のアトリエの再現。ここでアーティスト、奈良美智の横顔と日常の一端に接することができる。で、ここは奈良自身が選曲した音楽がBGMとして流れている。曲やアーティスト(壁にリストがピンでとめてあった)の名はわからなかったけど、フォーキー&アーシーな選曲だったよ。バンドのポスターはラモーンズだったろうか。余談だけど、美術手帖奈良美智特集号に掲載されていた奈良とアラーキーとの対談で奈良はスーパーチャンク(オレもフェイヴァリト!)のTシャツ着てたぜ。奈良さんのパンク・スピリットを確認。あ、オレは特にこの点に強く反応してしまうけど、飾られた絵や写真、置物の可愛らしさやセンスも良し。

 

これ以降、主に絵画作品が続く。大きな絵画作品のそれぞれに特徴はあるが、やはり『春少女』『夜まで待てない』『Under the Hazy Sky』といった淡い色調で描かれた一連の作品は明らかにそれ以前の奈良作品と質を異にしていて、現在の彼の境地を物語るような作品だ。表情に浮かべられた意地悪さや攻撃性、鋭利さは後退したか。そのかわりこれまでの作品よりもいっそう複雑な感情が溶け合い物憂げな表情を浮かべている。もともと奈良の描く少女が見せる表情は単に可愛らしさとか哀しみ、怒り、不機嫌とか、一言では言い表せない。また突き放すような冷たさと親近感とが同居している。複雑な感情の表出なんだ。だからとても魅力があるし、惹かれる要因でもある。さらにその複雑さゆえ“君や僕にちょっと似て”いる。と同時に・・・「“君”と“僕”は少しずつ重なり合ってはいるけれど決して同一ではない。だがしかし、世界はそのようにしてあたりまえのように成り立っている」とも言えるのだった。

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追記①: LPレコード・ジャケット・サイズにカットした段ボール紙に色鉛筆で描かれた作品のコレクションもあったんだけど、これらも良かったなぁ。このサイズ(313m×315mm黄金比)は何を描いても絵になる。これならオレでも作れる(笑)?

追記②:展覧会は大盛況で平日(といっても連休前の金曜日)なのに展示室もショップも人で溢れかえっていた。ざっと見て8~9割は女の客。特に若い子ばかりという感じはしなかった。そこかしこから「きゃー、かわいい~!!」の声。ちょっぴりうんざり。欲しかった奈良の絵を包装紙にあしらったチロル・チョコも品切れで買えなかったし...。ゆっくりじっくり見るために次の巡回先、青森県美の展示にも行こうかなぁ・・・。

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