2013年初笑い:鈴本演藝場初席夜の部

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。いったい、このブログを読んでる人がいるのかどうかもわからないが、とりあえず本年もどうかよろしく。

 

正月寄席で馬鹿笑いして新年を迎えるのがここ数年の恒例。ってなわけで...今年も見てきたぜ。上野鈴本演藝場、初席。七日、夜の部。実は、今年の初笑いは鈴本と早くから決めていた。昨年の暮から各寄席の番組表を睨みつつ考えていて、その結果、正月らしい豪華なラインナップが並んだこの日の鈴本を選んだのだった。

f:id:curio-cat:20130114153514j:plain

f:id:curio-cat:20130114153523j:plain

 

以下、印象に残った高座の感想&メモ。

文菊『豊竹屋』:どっかで見たことある顔。あ、そうか、昨年真打に昇進したばかりの元菊六だ。真打に昇進したばかりとあって勢いあるねぇ。『豊竹屋』は義太夫語りって言うのかな。音曲噺って言うんだろうか。生では初めて聞く演目。調べてみると…もともと関西で作られたらしいが、東京では圓生が好んで演じていたらしい。今はあまり演じる人がいないそうだ。文菊のそれは、歌謡曲さだまさしの『関白宣言』)が入るなど現代風にアレンジされていて聞きやすかったしわかりやすい。音曲ものだからまずは歌えないと話にならんのだけど、それに挑みかつモノにしている文菊の実力は確か。文菊は二つ目の菊六時代にこの演目でNHK新人演藝大賞を獲ったんだね。その意味じゃ鉄板ネタ。

余談...開演前に会場の階段で文菊師匠とすれ違った。色白でひょろっとした体系にニット帽を深くかぶり挙動不審。見た目は頼りなさそうな草食系男子。高座の姿とのギャップが激しい(笑)。

三三『権助提灯』:いつ見ても安定感ある。きっちりと笑わせてくれるし、なんといってもサゲがきれい。どの噺家もそうなんだろうけど、とりわけ三三はいかにサゲを決めるかにこだわって噺をつくってるような気がするんだよね。まさに「これこそが落語だ!」と言わんばかりに。飄々としてるのに、そんな気概をいつも感じます。

さん喬『徳ちゃん』:これも初めて聞く演目。数ある廓噺の中でも変わりネタなんじゃなかろうか。バカ花魁(今で言うところのデブス!)の描写が強烈。その印象が強かったけど、さん喬は古典の名手って言われてるよね。噺は上品で落ち着いていて流麗。本来の整った型を崩すからこの描写が活きてくるのかも。変わったネタを見られてよかった。

はん治『鯛』:捕まった新米鯛と古株鯛が生簀の中で会話を繰り広げる。魚の視点で人間界を風刺しつつ、鯛でありながら人間臭さたっぷりに喜怒哀楽を表す口調が二重でおかしい。はん治の豊かな表情、声、言い回しが見事。

権太郎『町内の若い衆』:すごくシンプルな長屋の夫婦噺なんだが、これは逸品。好きだなぁ、この噺。しかも権太郎バージョンは―後から気づいたのだが―サゲが二重の意味を持つように仕掛けられている。大げさな嫁の馬鹿っぷり演技がその仕掛けのひとつ。この能天気馬鹿嫁が発する言葉「町内の若い衆が寄ってたかって…」が、夫の言を受けて言ったのか、本気で言ったのかわからないまま落ちるのだった。現場では権太楼の過剰な演技がちょっと鼻についたのだけど、この仕掛けに気づいて逆に彼の“技”にうならされたよ。(音源あったので貼っとく)

市馬『厄払い』:明るい与太郎話。市場自慢の美声でよどみなく朗々と述べる口上が気持ちいい。

小三治甲府い』:まずはお目当てのひとつとも言える枕。今年の浅草演藝ホール初席のこもれ話から。寄席営業の裏話、芸人の楽屋話等。初席の混雑の酷さや、それを聞きに来る客(多くは浅草の観光がてら)、そしてそこで演じる芸人の様子。「一年分の稼ぎをそこで上げようってなもんで、あんなとこは落語通は行きませんよぉ…」。現代の寄席への批判や揶揄が含まれているんだけど、同時にそこに愛情とユーモアが込められているから決して厭味にはならない。むしろ「ふむふむ、なるほどねぇ、おもしろいなぁ~」と、いっそう寄席への興味が沸く。ネタは初めて聞いた。頑固ながら人情に厚い豆腐屋のオヤジが小三治のキャラクターに合ってる、っていうか小三治そのもの(笑)。人情噺にひきこまれて聞き入ってところ、サゲでパッと明くなって最後に爽快感が広がる。

f:id:curio-cat:20130114153451j:plain

 

名人小三治は言うまでもなく、いずれも実力申し分ない噺家たち。初席にふさわしい明るい噺が多く、いや~、楽しかったー。すご~く得した気分。大満足。ちなみに…鈴本演藝場は正月四日までのチケットは予約で買えるが、それ以降は通常通りの当日発売。オレは「もしかしたらチケット買えないかも?」と懸念して一時間前から並んだが、蓋を開けてみればトリまで満席にはならなかったな。自分が見たいものが容易に見られてそこは良いんだけど、みんなもっと寄席に来ればいいのにと思うよ(オレは末廣亭二之席も見に行く予定)。

f:id:curio-cat:20130114153505j:plain