悲劇の誕生:Godspeed You! Black Emperor アルバム&ライヴ レビュー

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ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー(以下GY!BEが新作の録音をしている…。そんなニュースをネットで目にしたのは昨年の秋ぐらいだったろうか。それからすでに数ヶ月、再び『bbf3』をこうしてライヴで聞けるとは...

 

一昨年の来日公演(All Tomorrow's Partyのサブ・イヴェント、I’ll Be Your Mirrorへの参加)。活動休止を2003年に宣言したまま音沙汰がなかったバンドの突然の再活動に歓喜したものの、一方でフェスティヴァルにありがちなワンタイム・リユニオンか、と期待半分不安半分でオレは会場へ赴いた。そこで目にしたのは以前のGY!BEと変わらぬテンションの高いパフォーマンス(ちなみ…日本公演は毎回、海外で一回、都合五回はこれまでに見ている)。あの本気のパフォーマンスを見せられたからには新作に期待しないわけにはいかない。

そして届いた10年振りの新作『Allelujah! Don’t Bend! Ascend!』。初期GY!BEにあった表現衝動が噴出・爆発している――彼らが活動を再開した理由はまさにこの表現衝動によるものだろう。逆に言えば活動休止に至ったのはそれを喪失した、あるいは維持できなくなったからなのではと推測している。

 

アルバムに収録されているのは全4曲で約53分。1曲が長いのはこれまで同様、三分間ポップ/ロックとは異なる、これ以下でもこれ以上でもない彼らなりの芸術表現。冒頭、不穏なドローン・ノイズ。徐々にリズムとオリエンタルなメロディを形作り、最後には絨毯爆撃のような激しいノイズとドラムビートで畳みかける。GY!BE史上屈指のラウド&ヘヴィネスとも言えそうなこの1曲だけで彼らの復活を確信。アルバム全体はドローン・ノイズを通奏低音としながら緩急が交互にやってくる構成。酩酊を誘う緩やかでサイケデリックなドローン・ノイズに続いて、単調なリフレインから荘厳で優美なメロディへ。さらにその平穏を叩き崩すように重々しくおぞましいメロディへと変貌。最後は再びドローン・ノイズ。しかし、最初のドローンとは異なりその荒涼で殺伐とした音像が虚無的な何かを暗示させる。

このアルバムには得体の知れぬ恐怖と不安と孤独が蔓延している。まるで複雑化して人々の顔が見えなくなってしまった、そして偽善と欺瞞が横行する(覚えているだろうか? 前作で彼らは大手レコード会社がいかに軍産複合体に組み込まれているかを図説したアートワークをジャケットに使用していた!)現代社会の中のように。こうした状況が続く限り、GY!BEの音楽は時代の空気と共鳴し続けるだろう。彼らの音楽は依然有効なのだ。見事な復活じゃないか!

 

そんな彼らの来日公演。見逃すわけにはいかない、ということで今回も行ってきたぜ。恵比寿リキッドルーム二日目。全5曲(冒頭のドローンを1曲と考えて)で2時間弱。アンコールなし。10年前とは若干のメンバーの入れ替え(チェリストとドラマーが抜け、代わりに新しいドラマーと初期メンバーだったギタリストが再加入)があったが、GY!BEの魅力をたっぷり堪能できるライヴだった。

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これまで通り16mmフィルムのプロジェクターとスクリーンを使用。無造作にステージに現れるメンバーたち。スクリーンに浮かび上がる「Hope」の文字。各々が楽器のチューニングをしているように見えて、それがいつの間にか一大ドローン・ノイズ(ヴィオラにもディストーション)大会となる。これを導入として新作でもオープニングを飾っている「Mladic」へ。実はこの曲、これまでにもライヴで度々演奏されファンの間で「Albanian」と呼ばれていた曲。アルバムで耳にした時、いかにもGY!BEらしいと思ったのはそのせいだったのか? ドラムビート(フロア・タム)の進撃…ライヴで聞くとやっぱり迫力がある。

ちょっと話が逸れるが…。この曲もそうだけど、GY!BEの楽曲ってワーグナー、特に『ワルキューレの騎行』を彷彿させるよな。多分にそれは映画『地獄の黙示録』の“戦争と狂気”がオーヴァーラップするせいもあるだろうが…。で、彼らの音楽には常に流麗な美しさと、それに対立するように緊迫感、焦燥感と不安感を煽るディストーション・ノイズが存在している。ニーチェに倣って言うなら、流麗な美しさがアポロンであり歪んだノイズはディオニュソスだ。ノイズは陶酔であり情動であり生々しい音の源泉である。そして彼らはそれを芸術として賛美している。まさに『悲劇の誕生』ではないか?

ライヴへ戻ろう…。続く「World Police And Friendly Fire」もライヴではおなじみの曲。前半の不安定で歪んだドローンから後半の破壊的な音圧の激流。背景には時に象徴的な、そして時に暗示的なテキスト及びワードのタイポグラフィーと映像が繰り返し映し出される。やはりどうしても…映像やナレーション、政治的なメッセージ等々から彼らに世紀末的破滅と再生のイメージを重ね見てしまう。ノイズ・コラージュを含む40分に及ぶ大曲(これまでのレコーディング作品には収められていないが、一応「Behemoth」という曲らしい)を挟んで最後に演奏された「bbf3」には鳥肌が立った。GY!BEを最も象徴している曲。狂気じみたダイアローグは得体の知れぬ恐怖と不安と孤独に陥れ、エンニオ・モリコーネの西部劇風リフが荒涼とした黄昏の景色を描き出す。それが夢に出てきそうな既視感となり、楽曲のドラマティックな展開にカタルシスを得たのだった。

あっ、やはりGY!BEギリシャ悲劇だった!!(笑)

 

GY!BEはライヴの録音も撮影も自由(!)に許可してる。ファン撮影による大量の動画がネット上にあがってるので興味のある人は探してみよう。そんな中からここでは「bbf3」を・・・。