あまちゃんスペシャル・ビッグバンド―年忘れヒットパレード@新宿PIT INN

じぇじぇじぇー!!! サイコーサイコー!! 感動! そしてナ・ミ・ダ…。2013紅白歌合戦あまちゃん」コーナー見た? ドラマの最終回に見立てた実に粋な演出で感動したぜ。

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さてさて、紅白の感動同様、昨年最も印象に残ったマイ・ベスト・ギグはあまちゃんスペシャル・ビッグバンド@新宿ピットインに決定しました!!

最初に白状しておきます。上で「あまちゃん」コーナーについていかにもわかったようなこと言ったけど、実はオレ、「あまちゃん」の本放送を見てません。正確に言うとテレビを見る環境になかった。我が家にはテレビがない。ドラマの「あまちゃん」に触れているのはネットで配信されていたダイジェスト動画「5分であまちゃん」(それも途中から)と、たまたまどこか(歯医者の待合室とか旅先のホテル)でチラ見した本放送の一部。あとはネットやツイッターで伝え聞く関連情報や感想のみ。紅白の「あまちゃん」コーナーだって某動画サイト様のおかげで見させてい頂いたに過ぎない。

かたくなにテレビを見ないオレが、なぜあまちゃんに興味を持ったのか。それはひとえに大友良英が音楽を手がけていたから。自称ファン(熱烈?)。大友さんの音楽はGround Zeroの頃から聞いているし、たぶん所持するCDやレコードも大友さん関連が一番多いはず(関連過去記事はコチラ→最初からそこにある音楽:大友良英 ONE DAY EMSAMBLES光と音の宇宙:Filaments Orchestra@世田谷パブリック・シアター)。だから「あまちゃん」だけは見たくて見たくてしょうがなかった。いや、これまでだって大友さんが劇伴を手がけたNHKのTVドラマはすべて見たかったよ。でも今回ほど見られなくて悔しいと思ったことはない。だってこれほど多くの人たちが「あまちゃん」を視聴(最高視聴率は27%らしい)し話題にしたんだからさ。

そんな中、誰よりも大友さんの音楽を聞いてるオレが「あまちゃん」談義に参加できないなんて…。しかも、アイドル歌手を目指す女の子が主人公で音楽の話題は不可欠。テーマ曲だけでなく劇伴のひとつひとつ、ちょっとしたディテイルにまで話題が及ぶ、いわば音楽劇なのに。だから「潮騒のメモリー」も「地元に帰ろう」も単なる挿入歌じゃない。それは紅白見ればわかるよね。オープニング・テーマや「灯台」を聞いただけで涙腺ゆるみまくってるオレとしても、この際もう大友ファン云々抜きにしてただただあまちゃん」ミュージックをみんなと楽しみたい!!

というわけで行ってきたよ。あまちゃんスペシャル・ビッグバンド(以下、あまスペバンドと略)@新宿ピットイン、二日目。

 

あまスペバンドはすでに日本各地のホールをほぼソールドアウトにするツアーを敢行していた。その最後の会場に選ばれたのが日本のジャズの殿堂的クラブ、新宿ピットインである。と言うか、もともと大友さんはここ数年来、年末の数日間にピットインでコンサートを開くのが恒例で、今年はその大友良英4デイズ・コンサート後半二日間のプログラムがあまスペバンドとなった次第。そして、あまスペバンド名義では、なんと今回が最後のコンサートになるというではないか。まさにラスト・チャンス! チケット売切必至が予想されたので、発売当日にピットイン窓口に並んで購入したよ。大友さんのコンサートでこんなにチケットが入手困難だったことなんていまだかつてあったろうか(笑)。

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当日はいつものピットインとはかなり様相が異なっていた。開演前から大勢の人だかり。普段のピットインって小難しい顔したいかにもジャズ通のオッサンばかりだけど、この日は老若男女が集まったばかりでなく、小学生くらいの子供の姿もチラホラ見える(その歳でピットインでライヴ見るなんて素晴らしい体験だ!!)。

会場すし詰め状態の中、いよいよ開演。オープニングは「あまちゃんのテーマ」。ドラマのオープニング映像とアキの笑顔が浮かび上がる。そして生のあまスペバンドの演奏を初めて耳にした感動で、予想通り涙がポロポロ。跳ね回るレゲエのリズムからおおらかに伸びていく旋律。この展開と旋律がツボ。他にも泣けてしまう曲はいくつもある。心が押しつぶされそうにせつない「希求」。反対に生命力漲る「灯台」。穏やかで優しい「海」。ドラマ見てないから特定の場面が浮かびあがるわけじゃないんだけど、もうすべての感情がいっしょくたになって溢れ出てしまう。放送視聴してたら号泣してたに違いない。

また、長年の大友ファンとしては「あまちゃんクレッツマー」にも感動。ジョン・ゾーンあたりを連想したりする一方、元チャンチキトルネエドの音楽性の豊かさと柔軟さにも感心。特にこの日のあまちゃんクレッツマー」では元チャンチキトルネエドを含む各メンバーのソロ・パート満載で、それぞれの演奏家の個性が垣間見えて楽しい。トロンボーンの今込治のひょうきんキャラ。トランペットの佐藤秀徳のイケメン顔(あ、顔は演奏と関係ない?)。そしてパーカッション部隊のふたり、上原なな江と相原瞳の軽快さと可憐さ。元スーパー・ジャンキー・モンキー、かわいしのぶのホンワカとしたグルーヴ。この日のライヴで何より印象的だったのは、実はこれらのメンバーの笑顔。みんな終始ニコニコ顔で演奏してるとこだった。その楽しさと明るさが聞いてる客にも伝染する。ウキウキワクワク感が満ち溢れてるんだな。

ライヴ中の大友さんの談話によると、あまスペバンド名義ではないけれど、今後も元チャンチキトルネエドを主体とするこのメンバーでの活動を継続するらしいよ。うれしいねぇ。

生の「トンネル」、「軋轢」もよかった。Sachiko Mのサインウェイヴや大友さんのノイズを大々的にフィーチャーしたTVドラマ史上もっとも画期的な曲? でも大友ファンからすればこちらの方が聞きなれたスタイル(笑)。ちなみに、この日のライヴは会場の小ささを活かして、ホール・コンサートで使うようなのPAシステムは使用していない。そのせいもあるのだろう。各楽器の音がとても鮮明で生々しく聞こえた気がする。

ゲストも陣も豪華。まずはマダムギターこと長見順。スナック梨明日を象徴する「琥珀色のブルース」で彼女が登場すると、華やかなジャズ・クラブが一転、泥臭い場末のバーの雰囲気に(笑)。ちょっとした小ネタを披露すると…彼女は元ゼルダのサヨコとユニットを組んでいたこともある。ちなみに旦那は元ボ・ガンボスのドラマー、岡地曙裕(個人的にちょっと「へぇ~」と思った)。もうひとりはアンニュイな雰囲気と歌声が個性的な阿部芙蓉美。以前大友さんが音楽を手がけたドラマ&映画「この街のこども」の主題歌を歌った人です。この日はその歌を披露する以外にも「あまちゃん」の歌モノも歌ってくれました。そして極めつけがU-zhaan御大。「芸能界」のいかがわしさは彼のタブラがあってこそ?

内心期待していたドラマの登場人物のサプライズ・ゲスト(例えばアキちゃん、ユイちゃん、天野春子や鈴鹿ひろ美の誰かがヴォーカルで参加とか)はさすがになかったけどね。いや以前、「その街のこども」に出演した森山未来がここピットインの大友さんのギグにゲスト出演したことがあったからさ…。

ところで、この日のライヴ、「年忘れヒットパレード」ってサブタイトルがついてる。「潮騒のメモリー」、「暦の上ではディセンバー」、「地元に帰ろう」といった曲がSachiko M長見順、そして阿部芙蓉美らによって歌われたことが「ヒットパレード」が意味するところなのかな? 詳しく知らないけど、これまでのホール・ツアーでは純 粋なインスト演奏だけで歌はなかったのかもしれない? それにしても大友さんの生ラップ(「暦の上ではディセンバー」)が聞けるなんてきっと最初で最後で しょ(笑)。思えば「あまちゃん」からはこうした歌モノのヒットも生み出した。Sachiko Mレコード大賞(作曲賞)を受賞するなんていったい誰が想像しただろう。でも実は、大友さんは過去に中村八大昭和歌謡の大作曲家)のカヴァーに真正面から 取り組んだりしていて、歌謡曲に関して一家言も二家言もあるはず。「あまちゃん」劇中の「いつでも夢を」、「君に、胸キュン。」、「銀河鉄道999」等の使い方、アレンジにしても絶妙だよね。アヴァンギャルドで先鋭的な作品と平行して大友さん独自の歌モノを今後もどんどん作っていってほしいな。

そうそう、大友さんのオシャベリも相変わらず楽しかったよ。大友さんの手書き楽譜がヤフオクで数百円?で売られていたこと、その人が訴えられて大変な賠償金を請求されたこと、レコード大賞だか紅白だかのために衣装をオーダーしたけど着る機会がなくてこの日来てきたこと、「潮騒のメモリー」をカラオケで歌っ てくださいね(印税入るから)とか、他にも作曲や録音の裏話、紅白のリハのこと等々、面白可笑しく伝える話術にも感心してしまう。話しすぎて演奏時間押してたけど。そこをまたSachiko Mにツッこまれたりしてね(夫婦漫才かよ:笑)。

 

最後に…知っての通り「あまちゃん」の劇伴にはひとつの曲でもいろいろなバージョンがある。それらは単にドラマの背景を埋めるために機械的にアレンジしたものじゃない。元曲は同じでも、バージョンごとに深い意味が込められてるよね。さらにドラマの展開・進行と共に曲の意味合いも徐々に変わってきて、まるで曲が生き物のように成長している。あたかもアキやユイの心情の変化のように、いやそれだけでなくドラマの登場人物それぞれの人生が変化するかのように!! ライヴを見てそれを強く感じた。

そう言えば…昨年の5月に岩波ブックカフェで催された大友さんのトークイヴェントに参加した際、ご本人に質問する機会があって「ドラマの脚本や放送と同時進行で進める音楽制作の難しさ」について訊ねた。すると大友さんは「作家やディレクター等の制作チーム・スタッフだけでなく演じている役者や視聴者の反応も含めて変化する制作過程をむしろ楽しんでる」って言ってたっけ。「あまちゃん」劇伴やあまスペバンドはまさにその結晶だね。

 

リアルタイムでの放送こそオレは見られなかったけど(ま、そこはDVDとかでまたゆっくり楽しむとして)、「あまちゃん」はブラウン管(って今もう言わないか?)の中だけの物語でなく、それぞれの役者の魅力や、サントラに至るまで何重もの楽しみと感動を与えてくれた。今回のライヴを見て、そこには絶対不可欠だった大友さんとあまスペバンドの皆さんに心から感謝の気持ちを送りたい。