2014新春初笑い―前編:鈴本演藝場初席第三部

恒例、今年も正月寄席に行ってきた。鈴本(演藝場)初席と(新宿)末廣亭ニノ席の二週連続。

鈴本では今年、これまで初席の主任を務めていた小三治落語協会会長)が退き、かわって弟子の三三が主任を担った(おそらく今後も?)ことが話題だった。小三治が主任を降りたことをさびしく思う人もいるかもしれないが、オレはそれよりも三三抜擢に興奮している。三三の実力は中堅どころでは随一だと思う。今後の落語会をひっぱっていく噺家のひとりだろう。主任を任せるのに申し分ない。その大役を受けてどんな噺を聞かせてくれるのかワクワクする。

それに主任ではないながら、小三治も依然初席に出演しているから正月の豪華さ、賑々しさ、満足度は保たれているしね。ただ一点、彼のマクラをたっぷり聞くことはここでは無くなってしまったが…。

一方の末廣亭ニ之席では従来通り小三治が主任を務めた。名人クラスのベテラン勢総出演。豪華さに加えて深みのある話藝をじっくり堪能。

というわけで、自分の覚書(ちょっとした薀蓄もあり?)も兼ねて印象に残った高座を紹介していくよ。まずは前編として鈴本の初席から。

 

2014 鈴本演藝場 初席第三部

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三三「芝浜」:大晦日を舞台とする「芝浜」は年の瀬に披露されることが多い。それを年が明けたばかりの初席でかけるのはめずらしいんじゃないだろうか。とは言え、初めて三三の「芝浜」を聞けたのはラッキー。「芝浜」と言えば…独創的で神がかりな談志版、威勢よく明るく清々しい志ん朝版、じっくりしみじみと聞かせる小三治版、そして戦後に現代の「芝浜」を確立させたと言われる三木助版と、これまでに数々の名人がそれぞれの解釈と個性で演じているだけに噺家の力量が試される、ある意味“怖い”ネタだ。三三クラスともなれば当然この噺も真っ向から挑まぬわけにはいくまい。

で、出来はどうか? 噺に没頭させるために絶対不可欠な澱みない台詞の流れは素晴らしい。表情、個性も豊か。そもそも三三は女を演じるのが巧いと思うのだが、ここでもそれが発揮されている。形としては小三治の流れを汲んでいるのだろう。夫婦のやり取りを一番に焦点を置いている。ホロリと泣かせる人情味に富んだ噺に仕上がっている。

ただし…寄席の時間制約もあるのだろう、本来の筋通り演じれば40分に及ぶだろうところをだいぶ端折っていた(河岸へ出かけて浜で夜明を迎える部分をまるまるすっ飛ばし)。オレが最も好きな、そしてある意味この噺の肝でもある“浜の場面”をすっとばしたのは残念。真冬の未明、ピンと張り詰めた浜の冷たい空気、その静寂を破る増上寺の鐘の音、薄っすらと明るくなる空の色の鮮やかさ、ひとり我の心と対話する主人公の勝。そこから一転、財布を見つけて動揺、興奮するという情景、心理描写の展開が、まさに「芝浜」の見所だと思う。そこをすっ飛ばしちゃーねぇ…。でも、もしかしたら独演会ではフル・ヴァージョンがあるのかしら。

オレが好きな三木助ヴァージョンの音源貼っておく。浜での描写をじっくりどうぞ。

小三治「小言念仏」:主任の重荷から解放されたことでいきいきと自由に演じてる気がする。この日は末廣亭(後編で触れるつもり)に比べて短いながらマクラが冴えていた。正月寄席に来る客への皮肉から季節の四方山話までをしなやかに編みこんでマクラを紡ぐ。またそれらの話がフムフム、ホホーと頷けるところも小三治ならでは。ネタそのものも軽いし、力んで話されてもつまらない。肩の力を抜いた軽妙なリズムに好感。

市場「山号寺号」:前振りに対していかにシャレられるか。リズムとタイミングが重要。それとあらかじめ準備したようなわざとらしさを見せずに、咄嗟に思いついたような自然さがないとね。どこまでが市場のオリジナルかはわからないけれど、以下、「巧い!」と思ったもの。「パルメザンチーズ味」。(寄席近くの居酒屋という振りで)「さくら水産魚肉ソーセージ」。中でも秀逸だったのは(市場自身の歌声を披露して)「市場さんオンステージ」。ニヤリ。これは言うまでもなく市場オリジナル。やっぱり前振りがあるからシャレが活きる。

権太楼「つる」:落語のネタには長屋住人がちょいと聞き覚えたことを猿真似して失敗するというのが多々ある。「青菜」「時そば」「看板のピン」「長屋の若い衆」等々。これもそうした猿真似しくじり噺のひとつ。単純ながらこの構図大好き。真似される側の巧者ぶりと真似する側の間抜け様とのギャップ。権太楼が演じる道化のはじけっぷりがギャップをより際立たせている。

白酒「親子酒」:持ち前の人懐っこさと明るさからか人気あるよね、白酒。その反面、ちょっと大げさでわざとらしい部分もあるけど。噺家仲間の酒飲み事情を盛り込んだマクラからサゲまでバランス良い。酒にまつわる噺はいくつもあるけど、「親子酒」では酒を呑む仕草が見所のひとつ。この点、白酒巧い。見ているうちにこっちも喉が渇いて呑みたくなる。旦那と婆さんの「体を温めて寝たいね」「イヤですよ、いい年して」、「きれいだよ」「ほんとですね?」、「愛してるよ」「ほんとですね?」のエロくだりも可笑しい。

しん平:たまたまこの日に起きた有楽町ビル火災と電車の遅延というタイムリーな話題で客をつかむ。だいたいこの人はきっちりしたネタをあまりやらない上にブラックなきわどい話も多い。おまけに小道具使ったりパフォーマンス的なものも取り入れたりで落語としてはかなり邪道だが、このユルさ、適当さも寄席ならでは?

喬太郎「駅伝山手線」:草食系男子を風刺した現代的な創作落語。若者の風潮と街の特徴(鈴本の膝元上野、秋葉のオタクやAKB、新橋のオヤジ、鶯谷のホテル街等々)を皮肉を込めて演ずる。でも、やっぱり創作は難しいなぁ。決して嫌いなわけじゃないんだけど...あまり笑えない。

 

その他、龍玉「ざる屋」 /燕路「黄金の大黒」

以上、鈴本演藝場初席第三部でした。後編では末廣亭二之席の模様を紹介するつもり。