さよならバウスシアター、最後の宴。コア・アノード篇@吉祥寺バウスシアター

五月某日

昨年は『あまちゃん』人気で一躍有名人となった大友良英。劇伴作曲家として彼の名を知る人は多くなったけど、ノイズ・ミュージック~即興演奏~実験音楽と多 岐にわたる、そして“コア”な作品と活動はまだまだ一般的じゃないかもね。そんな大友さんの実験的でノイジーなプロジェクトのひとつコア・アノードを見て きたよ。

こ れは吉祥寺バウスシアターが閉館ということで企画されたイヴェント。バウスと言えば、やっぱり『爆音映画際』の印象が強い。『爆音映画祭』は音楽関連作品 がセレクトされることが多く、気になる映画がよくかかってたな。大友さんが今回の企画に賛同したのも、そんな『爆音映画祭』への敬意と感謝の気持ちからと いうこと。あと、吉祥寺は大友さんのホームグランド(現在も在住してるのかな?)だし。コア・アノードを演奏ってのも「爆音」つながりで粋だよね。

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さて、ライヴの感想に行く前にまずは「コア・アノードって何?」という人のためにざっくりと説明しておくか。2000年頃、大友さんプロデュースでリリースされた姉妹的ふたつの実験的アルバムがあった。ひとつが『Cathode』で、もうひとつが『Anode』である。大友さん自身の解説によると…

 

ア ノードは、幾つかの演奏上の制限をインプロヴァイザー達に設けることによって作られた作品です。従来の作曲のように、ストラクチャーについては何分間演奏 するかという制限以外は一切の指定をしませんでした。したがって、ここでいう作曲とは即興演奏に制限をつけることを指します。

全曲に共通する設定は以下の3つ。

a) 他人の音に反応してはいけない

b) 起承転結をつけてはいけない
c) 普段使っている音楽的な語法やリズム、メロディ、クリシェを使ってはいけない

(中略)…

他 人の音に反応してはいけない…、これが全作品において最も重要なキー・ワードになっています。ただし、ここが重要なのですが、それらの出来事は、他の演奏 者の音に耳をふさぐことによってなされるのではなく、大人数の演奏家が同じ場所で音を出す中でなされなければならないのです。

(『Anode』ライナー・ノーツより引用)

 

また、実際のライナーに載らなかったライナー下書きにはこうも書かれていた。

本作は1970年代以降の東京のアンダーグラウンド・ミュージック、特にノイズと即興へのオマージュになっている。しかし、今回参加していただいたミュージシャンには、そのことは一切伝えずに、アプローチを限定するやり方で演奏してもらった。指定したのは、音符や音形、あるいはどういう世界をつくるかではなく、あくまでも作業の手順のみで、結果的には即興の自由を奪うことに焦点をあてた。従ってここでの作曲とは、演奏の限定を意味する。作業のように物音を出す。耳をそば立てるが反応はしない。演奏者の内面が何かを産むのではなく、作業の手順から生まれる何かと、にじみ出てしまう何か。

Improvised Music from Japan home pageより引用)

このアノードから派生したライヴ・コンサートがコア・アノードである。オレは過去に少なくともコア・アノードを3回体験している。明大前キッドアイラック、法政大学学生会館、渋谷O-nest。いずれも演奏者は会場を円形に取り囲むような形で散在し全方位から音が響いてくるスタイルだった。聴衆は会場を自由に移動して場所によって変化する響きを聞くことができる。PAシ ステムの限定された音の聞かせ方、聞き方を壊すと同時に、それとは異なる“音楽”を作ろうという意図があったように思う。だからコア・アノードは演奏され る音楽自体の面白さももちろんあるけれど、作品へのアプローチの仕方が同じくらい面白い(重要)だと思うんだ。演奏者にしても聴衆にしても。演奏者個々が 奏でる作品(音)は緻密なのに、一斉に演奏するとそれが“ノイズ”になるという現象。もともとは「爆音」という縛りもなかったはずだと思うが、大人数での 演奏が大音量へと向かい結果的に爆音になっていく(この点は演奏者次第だが、やはり大人数だとそうした傾向は強まる)。聴衆は耳をフラットにして、それを 爆音ノイズとして聞くこともできるし、演奏の細部に耳を傾けたり、自分で(脳内)アンサンブルを組んだりすることもできるだろう。

で、ここからが今回のコア・アノードの感想です。今回は過去に体験したような全方位型のコンサートではなかった。客席が固定された映画館が会場なということで、これは致し方ない。PAを使わない生ドラムとギターアンプによる爆音演奏は変わらず。即興演奏なので言うまでもなく作品(ライヴ)は演奏者に大きく左右される。今回の面子を見て、「おっ!」と思ったよ。出演者は大友良英JOJO広重大島輝之、美川俊治、Sachiko Mかわいしのぶ、山本達久、一楽誉志幸、植村昌弘、藤掛正隆、千住宗臣。まず11人中ドラマーが5人もいる。それもジム・オルークともユニットを組む山本達久にグランド・ゼロ時代から大友さんと共演している植村昌弘(オレの大好きなドラマー!!)。一楽誉志幸は名前でピンとくる人もいるだろう。そう、ドラびでおこと一楽儀光(大友さんとはI.S.Oでも活動)の息子さんだよ。あまちゃんスペシャル・ビッグバンドでもベースを務めるかわいしのぶ。極めつけは非常階段のJOJO広重と美川俊治(ちなみに美川さんは日本酒、而今のTシャツが着てた。気づいた人いるかな?)。こりゃ、大音量になるなーと予想。はたして予想は当たった。

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最初の「終わったら会話が聞こえなくなるから」という大友さんのMC通りいきなり耳をつんざく轟音が天井の高い劇場に響き渡った。が、爆音の壁というより、爆音の海。潮の流れのように速まったり遅くなったり、打ち寄せてきたり引いて行ったり。植村昌弘のソリッドなドラム。大島輝之の手数は少なめながら繊細なフィードバック・ノイズ。大友~JOJO~ 美川のラインはまさにジャズ非常階段の再現となる凶暴さ。重低音を支えたかわいしのぶの柔軟な演奏もよかった。ハーシュ・ノイズとは違う。ってか、ノイズ と呼ぶにはおこがましい、実にカラフルで細やかな模様が浮かび上がる。細密な刺繍作品のよう。アンプから直接響く生音のせいだろうか、音に温かみもある。 様々な音を脳内ミックスして聞く楽しみは尽きない。

これまでに行われた全方位形式コア・アノードとは違って「ステージ/客席」の対峙形式に面白みが半減するかなと思ったけど、またオリジナル・アノードで設けた規制をどこまで忠実に守っていたのかわからない(たぶんそこは割りと自由だったんじゃないかな?)けど、久々のコア・アノードの演奏。ノンストップで45分間、酔い痴れた(通常はやらない短いアンコールのオマケ付き)。ノイズと即興。いろんなものがにじみ出ていたよ。

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追記:【耳より情報!!】今回のコア・アノードは満員大盛況だったんだけど、大友さん曰く近々新宿ピットインで行われる大友良英スペシャル・ビッグ・バンドのチケットの売れ行きがかんばしくないとのこと。このバンド、昨年のあまちゃんスペシャル・ビッグ・バンドとほぼ同じメンバーだそうだよ。あまちゃんスペシャル・ビッグ・バンドのNHKホール・コンサートは瞬殺で売り切れたのにねぇ、「あまちゃん」の冠を外した途端にこれかよッ! あえて「あまちゃん」を謳ってはいないけど、きっと『あまちゃん』の曲も演ると思うぜ。昨年見逃した方は本格的ジャズ・クラブで「あまちゃん」が聞けるチャンス!!

追記②:大友さん自身が語る「ノイズ・ミュージックとは?」-『題名のない音楽会』に出演してノイズをかけまくった神回の動画。ノイズ初心者、と言うか「ノイズ・ミュージックって何?」と思ってる人にぜひ。