沁みた~。深く、深~く沁みこんだ…:Yo La Tengo@六本木エックスシアター

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五月某日

沁みた~。深く、深~く沁みこんだ。決して押しつけがましくない。自然と寄り添ってくる。熱狂とか興奮とはちょっと違う。でも、やっぱりヨ・ラ・テンゴはオレにとってとても大事なバンドなのだな。あらためて実感した。過去の記事にも書いたけど、彼らの活動(音楽)のおかげで、オレはこうして洋楽ロックをまた聞き始めるようになったし、今それを大いに満喫している。それだけじゃない。それを刺激に日本のポップ・ミュージックもこれまでにないくらい聞くようになっている。一昨年にリリースされたアルバム『FADE』以降、初めての来日ツアー。フジ・ロック出演や単発コンサートはあったものの、ツアーで来日するのは5年振りらしい。『FADE』が素晴らしかっただけに、ずっとこの日を待ち望んでいたよ。

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会場に着くとすでに開演時間を数分過ぎていた。昨年11月 にオープンした新しいホール、六本木エックス・シアターに来たのは初めて。大好きなバンドのライヴに水を差すつもりはないんだけど…この会場と運営はダメ ですね。あまりロック・コンサート向きじゃない。少なくともヨ・ラ・テンゴ向きじゃないよ。地下三階地上二階と施設は小綺麗で設備も整ってるんだろうけ ど、ドリンクバーが少なすぎる。おまけにチケット代とは別にドリンク料金\500もとっといて、あんな小さなカップにビールが注がれて出てきたのにはガッ カリ。あとさ、やたら誘導員(?)が多くて通路の所々で「間もなく開演でーす!!」とか連呼してる んだけど、無駄を通り越して邪魔。映画や演劇のように最初からきっちり見る必要はないし、音が聞こえてくりゃ誰だって開演だとわかる。小学生の修学旅行 じゃあるまいし。まさに余計なお世話、親切の押し売り。こうした必要のない人件費に金使うくらいなら、ビールの量増やすか、チケット安くしろよ。冗談じゃ なく真面目な話(こういうことって日本の公共施設の至る所で見られる悪しき習慣!)。実は音響に関しても、最初の数曲、パートごとの音がよく聞き取れないほどバランスがひどかった。中盤にかけてなんとか持ち直したけど…。

おっと、愚痴はこの程度にして…気をとり直して行こう。ステージ最前から数列後方、ステージ向かって左側、ジェームスの前辺りで陣取る。1曲 目からアイラのフリーキーなギターが暴れまくる。その後もアイラのギターがとにかく目立っていたし、かなりの割合がフリーフォームな構成。ジョージアと ジェームスのミニマルなビートの上で乱高下するアイラのフィードバック・ノイズに身を任せながら漂流していく感じがなんとも心地良い。そして曲間をノイズ の余韻で繋いだりと、バンドは今こういう気分なのかな?と思った。つまり、構成を練ってきっちり演奏するのではなく、曲に任せて気分に任せて自由に展開し ていく。それが結果的に混沌としたステージになった。そのせいかあのアイラの独特なギター演奏がたっぷり聞けたのは良かったな。

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中盤、静かなアコースティック・セットに移行。「Did I Tell You」のコーラスが素晴らしい。『FADE』からの曲で秀逸だったのはフィンガーピッキングでゆっくりじっくり聞かせる「I’ll Be Around」だった。優しく語りかけるような曲だ。この2つの曲で顕著だけど、ヨ・ラ・テンゴの魅力の最も大きな要素はアイラとジョージアのヴォーカルにある。アイラの気だるく柔らかな声、そしてジョージアの爽やかで軽やかな声。和む! 癒される! ちょっとシューゲイザーっぽくもある(笑)。この2つが溶けこんで紡ぎだすハーモニー。そう、これこそが“歌”だ。アイラのノイジーなギターの咆哮にもこの歌心がある。だからこそ心地良く感じるのだろうね。

ステージは再び大音量セットに戻り、「Before We Run」。ここでもやはり曲の後半からさりげなくアイラのフリーキーなギターがしのびこんできて曲が融解していく。続いて「Ohm」。『FADE』の第一印象は「地味なアルバムだなぁ」と思ったんだけど、この曲のように徐々に高揚しながらジワジワと沁みる曲が多いね。ラストの「I Heard You Looking」でもこれでもかというくらいアイラがギター弾きまくってたよ(笑)。

ヨ・ラ・テンゴからはポップ・ミュージックに対する深い愛情と敬意が滲み出ている。トラッドなカントリー風の曲、60年代のR&B風の曲もそうだし、アンコールで披露したカヴァー曲(ジョン・ケイル「Hanky Panky Nohow」、NRBQ「What Can I Say」)にしてもそう。過去の作品をさかのぼって聞くと、初期と比較してはるかに洗練されてるし、焦点もより明確になってるけど、やろうとしてること、バンドの嗜好は驚くほど変わってない。 実験的サウンドと言うよりも遊び心に溢れた演奏。ヨ・ラ・テンゴって彼ら自身が誰よりも音楽を楽しんでるよね。それが伝わってくるから聞いてる者もこんなに楽しくなるんだろうな。彼らがポップ・ミュージックを愛するように、オレもこのバンドを愛してるぜ。

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