午前0時のフィルム映写会@ギンレイホール:その三『フラガール』

…前回記事からの続き。

三本目。『フラガール

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『ウォーター・ボーイズ』に続いて、またもダンスもの。『ウォーター・ボーイズ』にしても『フラガール』にしても、主人公がずば抜けたダンスの才能の持ち主というわけではないけれど、彼ら彼女らの踊りを見ているとテンション上がるし、元気も出てくる。フラダンスなんてゆる~い踊りで盆踊りとそうかわらないものかと思ってたけど、なかなかに激しく情熱的なものもあるんだね。しかも伝統的なダンスがすべからくそうであるように美しく奥深い。いやぁ、ダンスの力は偉大だな~。

実話を基にした映画である。もちろん脚色されているのだが、その脚色が巧い。まずは指導者役の平山まどか(松雪泰子)。かつては花形ダンサーだったが今は借金取に追われる身。ハワイアン・センター立ち上げのため金で呼ばれるも、かつての栄光と現在の落ちぶれ荒れた生活の狭間で生きる意味を見失いつつある。そして封建的保守的な炭鉱村の少女たち。ダンスはまったくの素人にもかかわらず、夢と希望を追い求めて一途に努力する。この先生と生徒たちを軸に、その他登場人物皆のキャラクターがしっかりと描かれている。バックグラウンドもしっかり描かれている。村で対立する改革派と守旧派の対立がそっくりそのまま家庭の中にも持ち込まれていく。これって昭和40年の福島に限らず、日本の地方社会で現在も日常的に見られる風景だよね。その意味でも脚本は素晴らしい。李相日監督についてはまったく知識がなかったのだけど、以降覚えておこう(後で調べたら『悪人』もこの監督だった)。

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松雪泰子は歳とっていい女優になったね(偉そうな言い方でスマン。オレ、いったい何様って感じだが、松雪にはトレンディ・ドラマの印象しかなかったからさ)。人生に翳のある女、ドスの効いたセリフ、本気のダンス演技も良かった。同じように蒼井優もなかなかのもの。人気があるのは知っていたけど、この作品見るまで彼女のどこがいいのかさっぱり分からなかった。でも、あの素朴さと透明感、強い芯を持っているあたりに多くの人が魅了されてるのか、と納得。脇役陣も全ていい。不器用でオッチョコチョイだけど心優しい兄貴、豊川悦司。肝っ玉母ちゃん、富司純子(貫禄!)。改革派と守旧派の間で右往左往する炭鉱社長、岸辺一徳。そして、蒼井優の親友役、徳永えりの自然さ(主演した『春との旅』も良かった)。彼女が村を離れるシーンには不覚にも涙してしまったよ。

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実は常磐ハワイアン・センターにはガキの頃に一度行ったことがある。スパリゾートハワイアンズに改名される前の時代だ。今のスパリゾートハワイアンズがどうかは知らないけれど、オレの記憶にある常磐ハワイアン・センターは正直「暗いし狭いし、田舎臭くてアカ抜けないプール」だった。フラダンス・ショウがあったことも記憶しているが、子供にとってフラダンス・ショウは興味が沸かなかったし、バブル全盛の時代(ディスコの時代な)のフラダンスなんてまるで温泉街のストリップのように場末感をさらに強めるアイテムのように思えた。当時オレは湘南に住んでて、パシフィック・ホテル(サザン・オールスターズの歌で有名な茅ヶ崎のホテル)のプールの水泳教室に通ってたせいもあって、余計そう感じた。当時は深く考えたこともなかったけど、よくよく考えてみれば「福島の田舎にハワイ」とか不自然だし、サービスや客層とかも土地柄が反映していたのかもしれない。この映画を見てはじめて「福島にハワイ」の理由を知った。まず、その逸話に「へぇー!」「そーなんだー!」と感心。それだけでなく…、なんと、湘南ボーイだったオレは中学に入る頃に父親の転勤で栃木県に引っ越すことになる。ご存知のように栃木は福島のお隣で方言はかなり似ている。映画に度々で出てくる「デレ助」なんて言葉は栃木の北部でも使われてたっけが(「たっけが」もあの地域の方言です)。

この映画、実話が下敷きということで実に興味深い物語だし親近感も強い。何十年か振りにハワイアン・センターへ、いやスパリゾートハワイアンズへ、今度はフラダンス目当てにフラっと訪れてみたい。そんな気さえ起こさせる映画だった。

 

さて、三回に渡ってお届けした『午前0時のフィルム試写会』@ギンレイホール。地元神楽坂を愛してるので、映画に限らず近所で開催されるイヴェントや祭りにはできるだけ参加することにしている。一方、名画座は単なる娯楽施設ではなく、その地域文化の育成・向上の役割も担っている。都内の名画座が次々と閉館に追いやられている昨今、我が街のギンレイホールが善戦しているのは喜ばしい限り。これからも応援していくぜ。

と、記事を書き終えたところで、オレの思いが伝わったかのようにギンレイホールにて新たなイヴェント『神楽坂映画祭』のニュースが飛び込んできた! こちらも楽しみにしてますよ。