2015初笑い:中篇@鈴本演藝場初席

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一月某日


前篇に続いて中篇は鈴本演芸場。東京の寄席の中では最もじっくりと聞きやすい席と言ってよい。客も心なしか上品な感じがする。それだけに他の寄席より噺家が真剣に臨む傾向にあると感じるのはオレだけか(浅草とは対照的)。寄席にはそれぞれの雰囲気がある。そこも楽しみのひとつ。

 

白酒「ざる屋」:浅草と同じネタでマクラからサゲまでほとんど変わらず。正月に寄席をハシゴするヤツなんていないのかな。ここまで同じに演じられるとちょっと退屈。前編でも書いたように貫禄と安定感を身にまとってきた白酒だが、もっと冒険してほしい気持ちもある。

 左龍「つる」:隠居から聞いた浅い知識を自慢げに披露する典型的な長屋の滑稽噺。これこそが落語という実にくだらない噺(いい意味でね)。

 しん平:あまりにも独善的(時に過激すぎる)ネタを以前は下品と小ばかにしてたけど、最近になってそれも良いなと思えるようになってきた。理由は他の形式に囚われた優等生的噺家が多い中、しん平が異色な存在だからかもしれない。この日は果物の高級店、千疋屋から当世流行のパンケーキまでを取り上げてグルメ嗜好を揶揄(いかにもしん平らしい)したネタに加えて仮装“初詣セット”を披露。

雲助「新版三十石」:雲助のこの演目は以前もどこかで聞いた。酷い訛りの浪曲師が「三十石」を語る。この浪曲師、訛りが酷いだけでなくたびたび入れ歯が外れて「フガフガ…」となる。もともとは志ん生が作った『夕立勘五郎』を雲助が手直しした噺。単純だけに噺家の技量に左右される。雲助の技量はお見事。何度聞いてもおかしい。何を言ってるのかさっぱりわからないのに笑えるってすごいよ。あと、この人の語り口調と抑揚がいかにも落語家らしくていい。語尾の「…ですな」とか「…ってぇと」とかね。

はん治「妻の旅行」:前篇に続き再びはん治登場。彼は創作をやることが多い。そしてまたしても、ついてない、情けない、かわいそうな人を主役とした創作。どこにでもある夫婦の不満をネタにしたものだが、現代熟年男の悲哀が沁みる、哀しくも可笑しな良くできた噺。表現は大げさなのにわざとらしくない。客席から始終クスクスと笑いが漏れる。先ほど言及した誰かと違って正月だからといって予定調和にしないところにもますます好感。

権太楼「代書屋」:「町内の若い衆」でもこの話でも、権太楼演じる登場人物はキャラの振り幅が大きい。苦虫を噛み潰したような代書屋のオヤジにも親近感が沸くから不思議。今回は少し噺を短縮してた? ところどころに落とし場所があるから便利な演目だ。

小三治「小言念仏」人間国宝になって以降初めて聞く小三治。正月の華やかさとその存在意義を説くマクラもお決まりですね。ほっこりする。

喬太郎「同棲したい」:「同棲したい」は「同棲時代」とかけてるらしい。中年夫婦が青春を取り戻すために離婚して安アパートで同棲(「神田川」の世界ね)するという噺。喬太郎の新作は風刺が効いてるし目の付けどころも鋭い。人物も決して嫌いじゃない。…のだが、いかんせんセリフが大袈裟でわざとらしく説明っぽい。おまけに前のめりで話すところがどうも苦手。もうちょっと抑えてゆっくり喋ればもっと面白いのに。でもそれじゃあ、喬太郎らしくないか。客席は大爆笑でした。

市場「たらちね」:流暢な喋りとよく響く美声。まるで音楽を聞いているよう。ただし、この日は歌いませんでした(笑)。市場が出てくると場(寄席)が締まるというかどっしりと安定する。

三三「二番煎じ」:素晴らしい。引き込まれた。「二番煎じ」は夜回りをする前半と番屋との後半とで場面が二つに分かれ登場人物も多い。それらいろいろなキャラの旦那衆の特徴を見事に演じ分ける。また、凍てつく冬の寒気、それと対照的な熱燗のポーッとする温かさ。猪鍋のカッカとした熱。拍子木、鳴子、金棒の音。オノマトペを使った情景描写も巧い。昨年から鈴本での初席のトリを任された三三。巧さに加えて深みも出てきたんじゃない? この演目聴くだけでも来た甲斐ありと言える熱演でした。

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