相対性理論 presents「位相II」:相対性理論+Thurston Moore(Chelsea Light Moving)

先日のダイナソーを見逃した件は残念きわまりない。しかし不運あれば幸運もあり。その幸運が今回の『相対性理論+サーストン・ムーア』コンサートだった。実はオレ、相対性理論のライヴって今まで見たことなかったんだよね。厳密に言うと各メンバーが参加した即興的演奏(たしか大友良英のイヴェントだったか)や、やくしまるえつこのソロ・パフォーマンス(歌と朗読)は何度か見たことはあった。でも、やっぱりあの相対性理論が見たいじゃないか。今回やっとその機会に恵まれたってわけだ。しかもその前座がこちらもあのサーストン・ムーアなんだぜ。ちなみにムーアは冒頭に言ったダイナソーが出演したホステス・クラブ・ウィークエンダー2日目のトリだった。そう考えるとこの二組を一緒に見られたのはラッキーだったと思う次第。

 

ムーアと言えば言わずと知れたソニック・ユース。こちらはかれこれ十数回は見ているしムーアのソロも見たことはあるのだが…ソニック・ユースとはまったく異なるフォーキーな歌心を披露した昨年のソロ・アルバム『Demolished Thought』には驚かされた。さらに、メンバーであり伴侶でもあったキム・ゴードンとの離婚。いったいソニック・ユースはどうなっちゃうんだろうっていう心配も含めて耳目が集まるのは当然だろう。そんな期待と不安と両方を抱える中コンサートのはじまり、はじまり。

あれれ、ステージ上に数人のメンバーが…純粋なソロじゃない…。後で分かったのだが、主催者の発表した情報は「サーストン・ムーア」ってなってるけど、実際に演奏したのは彼が結成した新バンド、チェルシー・ライト・ムーヴィングだったのだ。フォーキーなソロ・アルバムの演奏を予想していたオレにはまったくの誤算だった! が、結果的に内容は素晴らしかったので満足。

「ハロー!」とムーアの第一声。だいぶリラックスしたムード。初期ソニック・ユースのガレージ・パンクとゆるい感じの融合、さらには名曲ダイアモンド・シーのような詩情溢れるものもある。言いかえると、かつてリリースしたソロ・アルバム『Psychic Heart’s』のバンド版のようでもある。それでいて切り裂くようなノイズも健在。

それにしても…これまで、特にソニック・ユースではバンド・サウンドがあまりにもユニークだからなのか、ムーアの歌声の魅力が指摘されることは少なかった。でも実はソニック・ユースの主なヒット曲って彼のヴォーカルの個性によるところが大きいと思う。その意味でも彼のヴォーカルが存分にフィーチャーされているこのバンドはいいね。

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そして、いよいよ初の“生”相対性理論体験。一曲目は“ミス・パラレルワールド”だったかな。飽きるほど聞いたキャッチーなメロディにアドレナリン値が高まる。ステージ上ではやっぱりやくしまるが目をひく。が…彼女は終始棒立ちで体を使った表現はほとんど無し(笑)。ただ、ライトセイバーみたいな発光する杖みたいなものを手に持ち、時折発光とシンクロさせてエレクトロニックな音を発信させていた。また何度か台詞らしきものをつぶやいたな。覚えているのは「三千万回まで金利手数料無料…それって意味あるね!」(それは意味あるかもしれないが、なぜその発言なのかの意味はわからん:笑)。そのあとに“三千万年”を演奏。

だいたいこの流れでいくのかなと思いきや、意外と知らない曲(最近の曲?)が多く、しかもお馴染みの曲もかなり異なるアレンジが施されていて、予想はいい意味で裏切られる。やくしまるえつこの歌世界はもちろん堪能したけれど、彼女の類稀な才能だけではないバンドの潜在能力の高さを思い知らされたよ。まず、ツイン・ドラムだなんて知らなかった。当然、リズム&ビートも強固でサウンドは厚い。やくしまるの独特の言語感覚を引き出すのはこのリズムとビートゆえか?と思ったりも…。それだけじゃない。バンドはこなれたポップ職人の面と同時に先鋭的なインスト奏者の面も見せてくれた。

その他……、やけにアニソンっぽいなぁと思った曲が一曲あったんだけど、それはももクロの曲だったみたい(一緒に行った友人が教えてくれた。後で調べたら“Z女戦争”だった。歌詞はやくしまる本人が提供したのね。ももクロに疎いもんで…)。この日の客はほんの一部を除いてやけにおとなしいなぁ、という印象を持った。奇声をあげることはおろか曲に合わせて踊りもしない。が、いくつかのレヴューを窺うに相対性理論のコンサートではどうやらこれがデフォルトらしい。ふーん…。

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相対性理論、初のライヴ体験をざっとつづってみた。前座のムーア含めてコンサートは最初から最後まで楽しめたぜ。ムーアの新バンドには興奮したし、相対性理論はなんと言っても初体験でいろいろ新しい発見もあったし。いずれじっくりやくしまるえつこの歌の魅力について書きたいな。

 

オマケ。サーストンの新バンド、チェルシー・ライト・ムーヴィングの音源が公開されてるよ。→ここ

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