永遠のアマチュア・スピリッツ:The Freewheeling Yo La Tengo

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ここ数日間、長年愛し続けているバンドのライヴが立て続けにあってずっとフワフワした気分だ。ダイナーソーJrチェルシー・ライト・ムーヴィング(サーストン・ムーアの新バンド)そして今回のヨ・ラ・テンゴである。ダイナソーにサーストン・ムーア、そしてこのヨ・ラ・テンゴにしても、いまだ健在で活動を続けてるってだけでも嬉しいのだが、見るたびに感動できる、ますます好きになるってのは稀有で貴重。

思えば…ヨ・ラ・テンゴを最初に見たのはかれこれ20年近くの昔、1994年、ロンドンのPower Houseっていう今は無きパブだった。客は20人もいなかったんじゃないかな。そのときに聞いた“Shaker”や“From the Motel 6”の音像は今でも鮮明に耳に焼きついてる。そう思うとなおさら感慨深い。で、この一週間はそうした記憶を反芻するように過去のアルバムひっぱりだしてずっと聞いてるよ。

 

さて、今回の来日公演はちょっと趣向を変えたスペシャル・ライヴなので、まずはその説明からしておこう。タイトルは『The Freewheeling Yo La Tengo』。「freewheeling」は「自由気ままに」という意味。この企画がはじまったきっかけは2006年までさかのぼる。彼らは地元ニュージャージーのラジオ局、WFMUの救済基金のためにカヴァー・ソング集を発表(『Yo La Tengo Is Murdering the Classics』)。また救済基金に伴うイヴェントにも参加し、寄付をしたリスナーからのリクエストに応えてその場で曲を演奏するパフォーマンスが行ったようだ。その翌年にアコースティック・スタイルによる最初の『The Freewheeling Yo La Tengo』のツアーが行われている。この『The Freewheeling Yo La Tengo』は観客のリクエストに応じ曲を演奏すると同時に、様々な質問にも答えるという方式だが、カプランいわく「次に演奏する曲を導きやすいような意図のもとに質問に答えている」そうだ。つまりこれは必ずしも単なるリクエスト大会でもなければ、単なるバンドとファンの交流の場(そういう要素も含んではいるけど)でもない。むしろタイトルが示すように、いかに予定調和を脱して即興的に演奏することができるかがテーマ。バンドとしてもそこに新鮮さ見出しているのだろう。これがスペシャル・ショウとして定番化し、これまでにアメリカ及びヨーロッパでのツアーを経て、ついにここ日本でも開催されたという次第。

説明が長くなったが、日本では初となるこのスタイルでの公演。調べてはじめて知ったオレも含めて、たぶんほとんどの客はあまりこの趣旨を理解していなかったんじゃなかろうか?(主催者様、その点しっかり告知、宣伝してね!)。

 

会場はラフォーレ・ミュージアム六本木。ショウの直前までラフォーレ原宿が会場だと思ってたオレ…。当日にアクセスが心配なって調べている時に思い出した。あ、確か数年前にもここでヨ・ラ・テンゴのライヴ見たよ。Sounds of The Sounds of Science』というこちらもスペシャルなショウで、水生生物の記録映像のためにヨ・ラ・テンゴが作曲したサウンドトラックを実際の映像をバックに演奏するというものだった。そんなことを思い出しているうちに会場に到着。すでに演奏ははじまっていた。

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セミアコ・セット。カプランはエレアコ、マクニューはエレキ・ベースだが、ハブレイはスネアとタムとシンバルだけのシンプルなセットで手にはブラシ。冒頭の数曲(遅刻したので何曲やったかわからん)が終わると、司会兼通訳の三人(そっくりの衣装とカツラでメンバーに扮し「アイラです」「ジョージアです」「ジェームズです」と自己紹介するシャレを披露:笑)が登壇し、リクエストを受けつけるわけではないと簡単にショウの趣旨説明があって質問タイムがはじまった。質問したい観客が挙手し、その中からメンバー(主にカプラン)が当てていく。そして、な、な、なんと、オレもこの貴重な質問の機会を手にしたのであった(あきらめずに手を挙げ続けててよかったぜ)!! 以下、自分の記憶とネット&ツイッターからの情報をかき集めて印象に残ったQ&Aを紹介しよう。で、ただQ&Aを掲載してもつまらないからオレの感想とちょっとした解説つけてく。どの質問をオレがしたかは記事の最後で…

 

Q:日本の好きなバンドを教えてください。

アイラ・カプラン:日本のグループ・サウンズが好き。スパイダースとか。この前ボアダムズのアイにリミックスしてもらったものも最高だよね。もともと自分たちの素材ではあるけれど、それが思いもつかないような仕上がりになっていて興奮した。

ジェームズ・マクニュー:今回も日本のアーティストのCDをいくつか買った。はっぴぃえんど、不失者、非常階段、Salyu...。

ここで演奏したのはスパイダースがカヴァーしたスペンサー・デイヴィス・グループの「Gimme Some Lovin'(邦題:愛しておくれ)」だったみたい。アイのリミックスは10月に発売されたシングル『Stupid Things』に収録。マクニューが日本のポップ史に輝く金字塔、はっぴぃえんどを選ぶのはわかるとして、不失者や非常階段というセレクトには感嘆。どちらも日本のアンダーグラウンドの大御所で世界でも知る人ぞ知る“いわゆるノイズ・ミュージック”のカリスマだ。アイにリミックスを依頼するくらいだからフォローはしてるんだろうけど、ダンプで見せるマクニューの作品とはかなりかけ離れてるところがおもしろい。ちなみに不失者(灰野敬二:彼についてはここを読んでね)も非常階段も単なる“ノイズ”の枠に収まらない、とくにフリー・ジャズとの交流および共演(最近、坂田明とのコラボレーションによるライヴ&レコーディングが話題に!)している点が近年のヨ・ラ・テンゴのジャズへの傾倒と重なるから頷けるセレクトではある。

 

Q:最も影響を受けた音楽と、自分は好きなのに世間ではあまり知られていないバンドは?

アイラ:影響を受けたのはキンクス。自分だけが知っている好きなバンドはAntietamニューヨークのマックスウェルズではよく演奏している。売れるとか売れないとかまったく関係なく長年にわたって活動している素晴らしいバンドだ。

ジョージア: The Back C.C.s。ニューヨークで見たときにいいなと思った。くわしく知らないけど、もしかして彼らは日本人なんじゃないかしら?

アイラ:ああ、あのバンドはいいねぇ!

ジェームズ:小さい頃に夢中になったのはミニットメンだね。彼(D.ブーン)はロックやってるくせにすごく太ってる。僕もほら…見ての通りの体型で…わかるでしょ(苦笑)。それですごく好きになった。

アイラが大のキンクス・ファンであることは有名。ジェームズが影響を受けたというミニットメンは80年代初期にアメリカ西海岸のアンダーグランド・シーンで活躍したハードコア・パンク・バンド。1985年に不慮の自動車事故でD.ブーンが他界しバンドは解散、伝説化する。単なるパンクにとどまらない革新的サウンドはアメリカのインディー・シーンに多大な影響を与えた。今聞いてもカッコいいよね。ジェームズがこのバンドに影響を受けたのは紛れもないと思うが、その理由を「D.ブーンが太っていたから」と言ったのは彼のユーモア(ここ笑うところですっ! 会場が本気で「へぇ~!」みたいな反応してて、逆に笑っちまった)。

AntietamもThe Back C.C.sもオレはまったく知識なし。でも音源聞く限りでは、さすが彼らが進めるだけあってどっちもカッコいいな。Antietam情報→ここThe Back C.C.s情報→ここ


Q:今録音中の新作はジョン・マッケンタイアと作っているそうですが、今回なぜ彼をプロデューサーに選んだのですか?

アイラ:ジョンとは二十年来の知り合いで、彼が以前のバンドにいた時には小さなバンで一緒にツアーしたこともあるけど、なぜか今まで一緒に仕事したことはないんだ。

ジョージア:うーん、変化を求めていたからかな。今までロジャー(バンド初期からプロでユースを務めるロジャー・マテノ)とずっとやってきたんだけど、そろそろ違う人とやってみるのもいいんじゃないかって…。

アイラ:トータスが好きでよく聞いている人が今度の新作を聞いたら、おそらくソレっぽい仕上がりになっていることが明確に分かると思う。僕らもその仕上がりにはとても興奮しているよ。

そう言ったあとに新作を披露。エンジニア、プロデューサー、そしてトータスの中心人物であるジョン・マッケンタイアとのアルバム制作にはトータス・ファンであるオレとしても胸が躍る。 質問に対してはっきりとした理由を語らなかったけど、推測するに、シカゴを拠点としてジャズの要素を積極的にバンドに取り入れてきたトータスと近年ジャ ズに傾倒している彼らが接近するのは自然な流れだと思う。アンコールで新作として披露した曲なんかミニマルでいかにもトータスっぽかった。ヨ・ラ・テンゴのほんわかした浮遊感とマッケンタイアのミニマルで硬質なサウンドがどのように融合するのか…きっとおもしろい作品になるに違いない。

 

Q:去年チャリティーでサイトで販売してた音源をダウンロードしたんですが、解凍に失敗して聴けませんでした。どんな曲でしたか? もうリリースしないんですか?

ジョージア:どの曲かわからないけど…もしかしたら毎年やってるマックスウェルズでのハヌカイベントの音源かしら。あれって、8日間やるんだけど毎日別のチャリティー団体のためにやってて…それを売ってたのかもしれない。

その後に演奏したのはラヴの“A House is not A Motel”。これは2006年に白血病で他界したバンドのヴォーカル/ギタリストのアーサー・リーのチャリティー・コンサートで演奏した曲らしい。

 

Q:ジョージアが映画『ハウス』(大林宣彦監督)のTシャツを着ているのを見たことがある。どういういきさつで?

ジョージア:あの映画が大好きなんです。サイケデリックでめちゃくちゃでおもしろい映画なの。私があの映画を好きだってことを知っていた友人がTシャツをプレゼントしてくれたの。

Q:その映画の原案者が今ここにいるんです。

ジョージア:えー、ほんと! わー、すごい、びっくりー。

と、隣に座っていたその原案者を紹介。よくよく考えて後で気づいたんだけど、たぶんあの女の人、大林監督の娘で映画プロデューサーの大林千茱萸さんだよね?! 違うかな…?

 

上に紹介した以外の曲では、以下の曲及び現在レコーディング中のアルバムから数曲が演奏された(ただし順序は覚えてない)。

Tom Courtenay

The River Of Water

Take A Giant Step(モンキーズのカヴァー)

Nuclear War

Double Dare

Sugarcube

Season of the Shark

Dreamin'(サン・ラーのカヴァー)

Bad Politics(ザ・デッドCのカヴァー)

Slow Down(マクニューのバンド、ダンプ)

ショウをふりかえってみると、なるほど客との“質疑応答”はあくまでも二次的で、それをもとに彼らが普段やらない曲や、忘れていた曲、あるいは咄嗟に試してみたいと思った曲なんかが演奏され、その醍醐味に溢れてた。セミ・アコだということもあり全体にほんわかした空気が漂っていたが、その空気を切り裂くようにアイラ独特のフィードバック・ノイズ・ギターが勇猛かつ美しく響きわたる場面もあり。

それにつけてもこのバンド、長年の活動にもかかわらずいい意味でアマチュア精神を維持してる。カッコつけようとか、うまくプレイしようとかしないんだよ。だからこそこういう企画も成り立つ。テニスコーツの記事でも書いたけど、自然体でリアルな音。そして何よりも純粋な音楽への愛が感じられる。カヴァー曲が多いのはまさにその証拠。それがリスナーにも伝わるから、彼らはこんなに愛されるんだろうね。なんか、オレの知らないうちにいつの間にか日本でのヨ・ラ・テンゴ人気がすごく高まっているのに驚いた。噂では小山田圭吾坂本慎太郎ボアダムズのヨシミも会場にいたらしい。

 

さてさて、はたしてオレがした質問とは……?

ジョン・マッケンタイアとの新作について」でしたー。余談…ヨ・ラ・テンゴはパステルズと交流が深い。そのパステルズはジョン・マッケンタイアテニスコーツテニスコーツについてはここを読んでね)と交流が深い。テニスコーツ植野隆司灰野敬二とも共演している。テニスコーツも夫婦バンド。そして今、ヨ・ラ・テンゴはジョン・マッケタイアとレコーディングしているのだった!!

おまけ:ヨ・ラ・テンゴの美しいフィードバック・ギター動画アップされてるぜ。必見!!