一之輔VS小三治:鈴本四月下席夜&浅草五月上席夜

小さん(先代)のゆうつべを眺めつつ、落語は奥が深ぇなぁと感じる今日この頃。先日は一之輔が主任を努めた四月下席の鈴本へ、そして小三治が主任を務めた五月上席の浅草演芸ホールへと寄席通いしてきたぜ。一応お目当ての噺家はいるけれど、それ以外の(特に初めて聞く)噺家に出会えるのが寄席の楽しみのひとつ。まだまだ知らない魅力的な噺家、そしてネタはあるもんだ。ホント奥が深ぇよ、落語は。で、ついてるのかついてないのか…鈴本の四月下席と浅草の五月上席の番組は出演者とネタがいくつかかぶってたせいで(コイツまたこのネタかよー、とツッコミつつ:笑)、はからずもそれぞれの噺家の特徴やネタを確認することに…。寄席は通えば通うほど面白い。

 

鈴本演芸場四月下席夜の部

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市弥『道具屋』:おなじみの与太話。何パターンもあり切り貼り自由なので寄席では重宝されるネタ。前座の練習用によく使われたりするらしい。市弥版はとくにヒネリもなさそうだけど、二ツ目の初々しさと与太郎の能天気な無邪気さが重る。マクラでは警官に職質されて噺家だということを証明するために蕎麦を食う真似をしたら「お前、前座だな」と言われるって話。いつものネタらしい。でも確かに蕎麦の食い方ひとつで芸の熟練度が分かるのは本当。未熟な噺家は声色で役柄を演じ分けようとする。巧い噺家は声色を変えずにアクセントで演じ分ける。名人ともなれば声は発せず仕草だけで演じ分ける。

左龍『お花半七』:おなじみ『宮戸川』の前半、お花と半七の馴初め部分。叔父さん叔母さんのボケ演技が巧み。噺のところどころに現代・現実ネタ(柳亭燕路を茶化すなど)を織り交ぜていた。虚構と現実が混ざるこういうの好き。

歌之介:いつもの漫談で会場爆笑。この後の浅草にも登場するんだけど、ほぼ同じネタだったよ。確かにこの人が「落語」 を話してるのは見たことない(笑)。オレの好きなクダリは「長生きする若者がどこにいる? 長生きしてるのはみんな年寄りじゃねぇか!」って談志に言われたってとこ。

一朝『蛙茶番』:前にも見た。一朝の得意ネタなんだろうね。澱みなく安定してる。ところで…この日はこの『蛙茶番』の“下”ネタがきっかけで、後半の出番が繋がっていくという寄席ならではの展開が繰り広げられていくのである(後述)。

菊之丞『酢豆腐:嫌われ者の若旦那のキャラと口ぶりが菊之丞に似合ってる。そしてさすが菊之丞、演技の所作がきれい。どっかの記事で彼のことを粋で洒脱って書いてあったけど、まさにそうだな。マクラは会長(小三治)、副会長(市馬)ともに下戸っていうこぼれ話(へぇ~×3)。

百栄『キッス研究会』:あ、このサモハンキンポーみたいなインパクトのある顔、見たことあるぞ。生で聞くのは初めてかな。なんとも緩い&軽いスタイル。異色の噺家って言っていいと思う。そんなスタイルにふさわしくネタは当然創作。もてない高校生が女の子との交際をシミュレーションする部活動「キッス研究会」での先輩と後輩のやりとり。百栄のキモいキャラが際立つ。ただ個人的には…またもや創作・新作の壁が立ちはだかる(苦笑)。

さて、膝となるここで紙切の二楽が客の『蛙茶番』というリクエストに応えて見事な“青大将”を切って、これが大ウケ。ご存知のように膝ってのはトリを盛り上げる、且つトリがやりやすいように控えめながらも客の熱を冷まさずにトリに繋ぐのが重要な役割。だからこそ紙切というある意味地味な色物がすえられているんだけど…この日の二楽は控えめどころか大盛況。さて、これを一之輔はどう受けるか。

一之輔『粗忽の釘:結論から言うと…この日の流れにそのまま乗り、さらにその勢いを煽ったのだった。まずはマクラ。タイのゴルフ場でのキャディとのやりとりに下ネタを織り込み、さらに演目の所々に即興で百栄を登場させたり、極めつけは彼のキッスネタまで拝借という力技でたたみかける(くれぐれもネタが 『粗忽の釘』だってことを忘れないように)。膝前の百栄から膝の二楽、もっと言えば前半の一朝の“下”ネタを取り込んで繋げた一之輔、見事! まさに寄席の醍醐味を堪能したよ。今回初めて見た生一之輔。変幻自在臨機応変。そして何よりも勢いがある。ぶっちゃけ、オレ好みのスタイルではないけれど、さすが21人抜き真打昇進は伊達じゃなかった。

 

浅草演芸ホール五月上席夜の部

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禽太夫『権助芝居(一分茶番)』:芝居噺。田舎者の奉公人、権助の口調と素っ頓狂なボケが面白い。芝居そのものの筋が分かればよりいっそう楽しめるんだろうな。今回マクラで新歌舞伎座を話題にする噺家がやはり何人かいて、落語と歌舞伎の繋がりを感じる。前にも書いたがやっぱり歌舞伎も見ようかな…。

福治『町内の若い衆』:好きなんだよこの噺。どこかで聞き覚えた話を自分に当てはめるパターン(他にも『青菜』とか『看板のピン』とか『時そば』とか)。福治は…声がやたらでかく明るくハキハキした喋りなんだが…そのせいかやや一本調子に聞こえる…。

市馬『芋俵』:相変わらずの美声。安定。

燕治『金の大黒』:威勢よく軽快なテンポの下町弁。次々に登場する長屋の住人の様々なキャラを演じ分ける。

川柳『ガーコン』:決して多くないオレの寄席観劇の中で、川柳を見た回数は上位にくる。しかもほとんど『ガーコン』。あとは漫談だけ。なのに『ガーコン』の意味さえ知らなかった(ウィキに書いてありました)。他のネタ見たことないよ。一度聞いてみたいもんだ。

権太楼『代書屋』:川柳に続いて見た回数が多いのが権太楼。そして毎度の『代書屋』。「だいしょや」じゃなく「でぇ~しょや」ですよ(笑)。

百栄:鈴本で見た百栄がまた登場。今回は漫談のみ。鈴本の高座とネタがかなり被ってたけど、わざとらしい創作ネタ聞かされるよりも、ゆる~い空気の漫談の方がずっと良い…なーんて言ったら失礼かな? 「古典が苦手」という自虐ネタに笑う。

三三『湯番屋』:三三も見た回数は多いが、こちらは逆に同じネタを見たことない。それだけ勉強してる(持ちネタが多い)ってこと。迫真の噺も巧いがこうした軽妙な噺も巧いねぇ。隙がない。若旦那の妄想の暴走を畳み掛けるように演じきった。

志ん輔『豊竹屋』:音曲噺。粋できれいな噺。義太夫が唄えなきゃ話にならんってことで演じる人はそう多くないのでは。

歌之介:漫談。鈴本の時とほぼ同じネタ。もう全部オチが分かってるんだけど、それでも笑えるのは寄席の雰囲気がそうさせるのかな。爆笑してる客につられてついつい笑っちゃうんだ。ただ、この人剽軽に見えてなかなかの反骨気質。意図してテレビには出ないらしいからね。テレビでできないきわどいネタが多い。ネットの動画には公然と原発批判をする講演の模様も見受けられる。

小三治『やかんなめ』:いよいよお目当て登場。今回もマクラが面白かったなぁ。最近受けた健康診断の話から昔の医者の適当さを実体験を織り交ぜて語る。この話が爆笑で沸いたのだが、 それに対し小三治が「いや、笑ってますけどね、本当の話なんですから。こんなおかしな話を私が考えつくわけがないでしょう」とさらに笑いを誘っていた。そこから癪や 疝気や合薬やまむし指の説明(勉強になるなぁ)。本題の『やかんなめ』へ。いくつかヴァージョンがあるらしいが、小三治のそれはお侍版。サゲもきれい。間といい調子といい名人芸に違いないが、小三治にはじんわり染み込んでくるような親しみ安さがある。

 

二日間通った寄席。活きのいい一之輔と老練の小三治という対照的な二人を鑑賞。一之輔は男前で華があって、人気があるのも頷ける。一方の小三治は上にも書いたけどジワジワと染み入る笑いで和むなぁ。これもどっかで読んだんだけど、師匠の小さんは「後で思い出してクスっとするような落語を目指した」らしいけど、小三治はそれを正しく継承してる。何度も繰り返すが…寄席は通えば通うほど面白い。徐々にネタも覚えてきて、馴染みの噺家も増えてきて、さらに楽しくなってきたよ。

 

おまけ:小さん『夏泥』