PIXIES:アルバム『Indie Cindy』&ライヴ@サマソニ2014・レビュー(後編)

八月某日

 

前回記事からの続き・・・

新作を引提げてピクシーズが来日する。出演するのはサマソニ2014、ソニック・ステージのトリである。

お目当てが登場するのは20:20pmの予定だが、高いチケット代を払ったのでモトをとりたいっていう欲をかいて午後の早い時間に会場に来てしまった。トリまでだいぶ時間がある。さて、誰のステージを見よう、とタイム・テーブルを眺めてみる(それまでピクシーズ以外の出演者を気にしてなかった)。が、「こいつどうしても見たい!」って人がまったく見当たらない。困ったな(苦笑)。かと言って、会場でボーっとしていても仕方ないので、ふだんは絶対に見ない、つまり積極的に単独ライヴには行ったりしないアーティスト(?)のステージをあえて見ることにする。オレ流フェスの楽しみ方?

木村カエラ(マリン・ステージ):「リルラ リルハ」や「バタフライ」など、知ってる曲がいくつかあった。とくに「リルラ リルハ」はリズミカルなギターのカッティングが印象的で純粋にいい曲だと思う。歌もそこそこに上手いと思ったが、興奮を引き起こすようなパフォーマンスではない。客席にファンらしき女の子が多い。そう言えばカエラ好きっていう女の子はたまに見かけるけど、男はいない。少なくともオレの周りには。女にアピールする何かがあるのだろう。フォトジェニックなところかな? しかも男に媚びない可愛さ? 周囲で湧き起こる「キャー、かわいいー!!」という奇声に急激に冷めていく。木村カエラ30歳、二児の母。

きゃりーぱみゅぱみゅ(ソニック・ステージ):客の中に子供とその親が目立つ。きゃりー信者(?)のような模倣ファッションの若い女の子や、ドルヲタっぽいオッサンの姿も見られる。かつての歌謡曲のように国民的人気歌手が生まれづらい昨今、老若男女すべてをファンに持つきゃりーは言わば国民的アイドルなわけで、その点ではスゲぇな。音楽は普通のダンス・ミュージックでした。ダンスも普通でした。ファッションは遠くて見えませんでした。

森高千里withトーフビーツ(レインボウ・ステージ):森高全盛期をリアルタイムで経験してるから、だいたいの曲知っている(笑)。トーフビーツが巷で流行ってることも以前から耳にしていた。けど、実際に聞いたのは今回が初めて。ダンス・ミュージックにアレンジされた彼女のヒット曲を聞くのは楽しかったし、快感神経のツボを刺激するビートとポップさに思わず体が揺れたよ。ピクシーズ以外で一番楽しんだのは実はこのステージだった。ただし、森高はすっかりオバサンになっていた。ステージ衣装で太ももから下を晒さなかったのはちょっと不満。恥ずかしさと遠慮があるのだろうか。そこまで吹っ切れていればもっと盛り上がるのにな。森高千里、45歳。二児の母。

アヴリル・ラヴィーン(マリン・ステージ):名前はもちろん聞いたことあるけど、曲はまったく知らなかった。洋楽にしては日本人が好きそうな感傷的なメロディが多い(ロックばかり聞いてるからそう思っただけかも)。手軽で便利な産業ロックだとしか感じなかった。そういう意味ではまさにサマソニに向いてるな。アヴリル・ラヴィーン、30歳。バツイチ。ビバリーヒルズとベルエアにそれぞれ4億円と9億5千万円の豪邸を所有している。

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 ちなみに…ここまでロック・バンドをひとつも見てねぇぞ(そう、サマソニは“ロック・フェス”ではないんだなぁ)。もう待ちくたびれた。ぬるいエンタメ・ミュージックばかり演奏するサマソニで本物の“ロック”を響かせてくれ!!

余談・・・会場で第一回、つまり始めてサマソニ富士急ハイランドで開催された時のポスター見つけたよ。これまでにオレが唯一見に行ったサマソニである。最も印象深いのはやはりジェームス・ブラウンだな。その五年後に彼は他界。キング・オブ・ソウルの生ステージを体験できたのは貴重だった。あと、シガー・ロスも良かった。オレはそれ以前に英国のフェスで彼らを見て知ってたから、当時雑誌などで激推ししてたんだけど、日本ではまったく無名でこの時もオープニングで出演している。その後、日本ではエイヴェックスと契約して超ビッグになっていった。サマソニもこの当時はまだロック・フェスっぽいよね。日本のフェスもずいぶん変わってきたなぁ。

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ピクシーズ(ソニック・ステージ):ようやくピクシーズの開演時間となる。この日のために数日前からずっと彼らの録音作品を聞きまくり、ユーツベで最近のライヴ映像もチェックしていた から、シミュレーションはバッチリだ。しかも、上に言ったとおりこの日ロックらしいステージをひとつも見ていなかったから、弾けたい気分も最高潮に達して る。

一曲目、「Bone Machine」。来たー!! いきなりブラック・フランシスの咆哮、圧倒的破壊力。これに興奮せずにいられるか。続いてシングアロングを誘う「Wave Of Mutilation」、「U-Mass」、さらにもう一発とどめを刺すように「Something Against You」。爆撃のように連打されるこれらの曲で一気に昇天してしまった。特に「Something Against You」は突っ走ったきり戻ってこない、余韻すら残さない一撃必殺ソング。まさにピクシーズを象徴する曲。「U-Mass」も2004年の再結成来日公演では演奏しなかったので、それがついに聞けて大満足。最近のライヴ映像でさんざんシミュレーションした(タイルのような白幻燈(反射鏡かな?)を背後に並べたステージ・セットも一緒)とは言え、やっぱり生の演奏は音圧とその迫力が違う。

これら轟音の後、弛緩させるような「Hey」。このバンド・アンサンブルが何度聞いても素晴らしい。じっくり聞かせるフランシスの歌唱力、サンチャゴの泣かせるソロ・ギター、ロヴァリングの抑制されたドラミング、そしてキム・ディール(もちろん今回ステージに立つのは新しく加入したパズ・レンチャンティン)のメロディアスなベース・ラインとコーラスがすべて有機的に絡み合った奇跡の化学反応だ。

中盤、フランシスはアコギに持ち替え、バンドは「Nimrod's Son」、「Here Comes Your Man」などを演奏。その後、「Monkey Gone To Heaven」、「Debaser」を続けざまに披露したところが間違いなくこの日のハイライトだった。聞いた瞬間にすぐわかる「Monkey Gone To Heaven」のオープニング。ピクシーズの名刺代わりのような印象的なギター・イントロにゾクゾクっと鳥肌が立つ。「Debaser」もイントロから大盛り上がり。客が歓喜して飛びはね、大合唱大会となる。

このラウド/クワィエット/ラウドの流れは一種の脳内麻薬だ。当時はそれを明確に意識しないまま、彼らに惹かれていた。今ははっきりとわかるし、そこに快感を求めてしまう(その部分をはっきり指摘し焦点を当てたカート・コバーンの審美眼はやはりすごいってことになるのかな?)。ちなみに新譜からは「Bagboy」、「Magdalena」、「Greens And Blues」の3曲が演奏された。「Bagboy」も「Magdalena」も旧作のような破壊力はないけど、無限ループでジワジワと中毒を引き起こす。ピクシーズにとっては新境地を開いたように思う。逆に「Greens And Blues」は宝石のようにきらめくメロディを聞かせてくれる、いかにもピクシーズらしい曲である。いずれも旧作と比べれば当然思い入れの深さは違う(それは他のオーディエンスのやや鈍い反応でもわかる)わけだけれど、新曲に違和感はなかった。

ショウの幕が閉じた時はもっと聞きたいというより、完全に茫然自失。本当にあっという間に過ぎ去った瞬間だった。目の前で起きたことがにわかに信じられず、夢でも見ていたかのようだ。白幻燈の逆光に影だけ浮かび上がった彼らの姿は、まるで『未知との遭遇』で地上に降り立ったUFO、あるいは『2001年 宇宙の旅』のモノリスのようにも見えたのだった。

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オマケ:最近のピクシーズのライヴの構成・様子はこんな感じ。サマソニ冒頭の3曲の流れはこの動画と同じだった。


Pixies en Lima Peru Bone Machine + Wave of Mutilation +U Mass 08.04.2014 Night Lights Festival 2014 - YouTube