2015初笑い:前編@浅草演藝ホール初席

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一月某日

 

今年も行ってきました。ここ数年、正月には必ず寄席を訪れている。オレにとっては初詣みたいなもん。寄席詣である。今年は浅草、上野鈴本、新宿末廣亭と三席回ったので、前編中篇後編に分けて記事を書いてくよ。

まずは浅草演藝ホールからスタート。初席は縁起物。とくに誰を目当てに行くというものでもないけれど、根が貧乏性なのでせっかくならお気に入りの噺家の高座を見たいと思い、この日は浅草を選んだ。知っての通り正月興行は「顔見せ」ということで、多くの演者、しかも有名どころが次から次へと入れ替わる豪華な興行。寄席に通いだした頃は「初席はいろんな噺家がいっぺんに見られていいなぁ」と思ったものだ。しかしその一方、ひとりあたりの持ち時間は短い。特に浅草の初席は四部構成で出演者も多数。さらに時間が短い。当然、じっくり噺を聞かせるなんてことはハナから無理。い つだったか、かの小三治が「(浅草の)初席なんて行くもんじゃないですよ。まともに話してる暇などないんですから」と自虐的に揶揄してることがあった。確 かに伝統的「話藝」はそこにはないかもしれない。が、初席ならではの楽しみ方ってのもある。短い持ち時間でいかに客を笑わせるか、そのためにどんな演目を 選ぶのか、あるいは小噺で繋ぐのか、あるいは演目などやらずに漫談で通すか、はたまた落語以外の藝(踊りとか歌とかね)を披露するのか。そこに噺家の力量 と姿勢が垣間見られたりするのである。

気になった&印象に残った高座を中心に、以下覚書と感想(順序はほぼ出番通りだが、記憶に頼ってるので前後していたら悪しからず)。

 

馬風強面を売りにテレビでよくトンネルズと絡んでた人。テレビで見てた若い頃はまだ落語のことをよく知らなくて(興味がなくて)、ただのバラエティ・タレントとしか思ってなかった。前の前の落語協会会長を務めたんだね。恥ずかしながら知らなかった。しかも、さすがに会長まで務めただけあって、引き出しいっぱい持ってるし、迫力あるし、客を引き込む力が強い(オレが言うのも失礼だが…)。もともと風刺を効かせたきついジョークを得意としてる。この日も、先代の三平や先代の小さんをジョークのネタにして笑いをとっていた。


「会長への道」 鈴々舎馬風 - YouTube]

一之輔「みそ豆」:日常の出来事にある笑い話をした後に「みそ豆」を。「みそ豆」は小噺に毛が生えたくらいの短い演目。相変わらずちょっと悪そうな一之輔。この人は毒を持ってるっつーか、ちょっと不良っぽいところが魅力だと思っている。チョイ悪オヤジである。彼がやる「みそ豆」には、無邪気さやそそっかしさの中に小ずるい感じが出てて、そこが逆に良い。

半蔵:圓蔵の二番弟子。圓蔵は月の家圓鏡(襲名前の名)で通っていた。「エバラ焼肉のたれ」の人と言われてわかった。ガキながらに強烈に記憶に残ってる。半蔵も早口でまくし立てる軽快な口調が圓蔵に似てるかな。この日は圓蔵のエピソードと小噺をいくつか。余談ながら…昔は噺家がCMによく出てたよな。昭和の人気噺家のほとんどがCMに出てたんじゃない? 圓鏡の他にも、三平の「二木の菓子」、小さんの「あさげゆうげ」、志ん朝の「錦松梅」とかね。


メガネクリンビュー・他CM 80年代 - YouTube


1975年CM 永谷園 あさげ お気に入り 柳家小さん - YouTube


錦松梅 - YouTube

雲助「小ほめ」:「小ほめ」は聞き知ったことを他で披露して間違えるというよくあるパターン(他にも「時そば」、「青菜」、「つる」、「町内の若い衆」、「鮑のし」等々。「大工調べ」もそのひとつかな)。聞き間違いと言い間違いの連発が楽しい。長屋住人の汚いべらんめぇ口調もいい。

市馬:呼び出しや行事のモノマネ(巧い!)を織り交ぜながら相撲ジョークで進む。最後は相撲甚句の替え歌を歌い上げた。やっぱり歌うんだね。

扇辰「お血脈」:以前聞いた「団子坂忌憚」が鮮烈ですばらしかった。以来、彼のファンなのだが、扇辰のネタはおとぎ話とか妖怪、幽霊といった怪談が多い気がする。こういう噺が得意なんじゃないかな? タイプとしては折り目正しい話し方に分類されると思う。怪談噺はこれくらいハキハキしてる方が、声をひそめるおどろおどろしい場面とのギャップが生まれていいのかもしれない。「お血脈」は怪談ではないけど、この噺にも地獄を舞台に閻魔大王とか石川五右衛門とか、妖怪のようなキャラクターが登場するから扇辰に合ってる?

花禄:実力も知名度も高いながら、実は花禄を聞くのは――記憶が確かならば――今回がはじめてかもしれない。先代小さんの孫で落語会のプリンスっていう勝手なイメージ持ってる。この日は日常で起きた笑い話、自虐ネタだけで演目はなし。短かったが軽快でテンポも良く面白かった。腰を据えてじっくりと一席聞きたい。

たい平:もう何年もテレビを見る習慣がないので、恥ずかしながらたい平のことはまったく知らなかった。笑点レギュラー=人気者なのだろう。一段とおおきい拍手。笑点メンバー、木久扇、小遊三歌丸、円楽、山田隆夫をひと通りいじって客は大喜び。この辺はお決まりのネタなのかもしれない。オレはテレビネタがわからないので、あくまで画面でのやりとりを想像しながら噺についていく。その割に笑えた(周りの客につられた?)。ってことはそれもたい平の腕なのかな。

喜多八:ツカミは「規則正しい不摂生」というお決まりの文句(笑)。この日は立ち飲み屋の話題。立ち飲み屋、特に酒屋の一角にある立ち飲み酒場のことを通は「かぶと」と呼ぶらしい。へぇ、はじめて聞くぞ。その「かぶと」での光景と客の振舞いを取り上げて、飲んべぇのあるべき姿を説いていく。「飲み食いの仕方を人様に押し付けるのは下品」と言いながら、ほとんど愚痴というか、小言というか、文句をいつものようにぶつぶつと喋る。その勝手な理屈と、あえてその下品なことをするのが可笑しい(ちなみに「かぶと」の噺は持ちネタらしい)。噺の〆は「今日も飲みに行きたいんで、この辺で…」と。いかにも喜多八らしい。

百栄:不真面目でやる気なさ気でゆるい空気が百栄の持ち味。空気はゆるいがテンポはいい。好き嫌いが分かれるんじゃないかな。とくに古典を重視する人からは倦厭されるタイプだと思うが、オレは決して嫌いじゃない。交通取締中の白バイ警官と車内の夫婦とのやりとり。もともとあるネタなのかな。面白かった。

三三「雷門泥棒」:小噺「ハイテク犯罪(銭湯で他人の草履を“履いてく”)」のオチを客に言われるというハプニングがあった(笑)。起きた瞬間は「珍しい」と思ったけれど、よくよく考えれば、オチをすぐに言わずに間を空けたのはわざとじゃなかろうか(あえて客に言わせようとしたのでは)? その後起きた拍手に対する「手遅れ」って言葉も準備してたんじゃないかな。そこから「雷門泥棒」のショートバージョン。

 権太楼「町内の若い衆」:客の入りの悪さを自虐的に笑いに。何度も何度も見ている演目で安定の面白さだが、権太楼の特徴は緩急、静騒のギャップが激しいところだとあらためて感じる。

白酒「ざるや」:ここ数年ですごく貫禄出てきたなぁ。白酒、47歳。浅草および演芸ホールの四方山話から「ざるや」。縁起もいいし、わかりやすくて正月にはもってこいの演目。白酒は見た目も福々しい?

はん治:はん治の高座は何度も寄席で見てるけどハズした記憶がまったくない。地味ながらいつも笑わせてくれる。小三治の弟子なんだけど新作の頻度が多い気がする。で、この人の新作はいい! 新作が苦手なオレが言うのだからきっと間違いない。この日は新幹線でのヤクザと携帯電話のマナーネタ。よくあるテーマだが今回も引き込まれた。ついてない、情けない、かわいそうな人を演じるのが巧いんだよね。同情を誘う(笑)。ドラマティックな演出、展開も巧妙。

さん喬「抜け雀」:この演目、人情と滑稽が混ざっていて、そこにおとぎ話の要素もある。サゲもきれいだし、本当によくできた噺だ。あまたの名人たち(志ん生志ん朝米朝等)の録音が残ってるけど、生で聞いたのはこの日のさん喬が初めて(古今亭以外がやるのはもしや珍しいのか?)。ラッキー。さん喬は品があってソフト。志ん生志ん朝の明るい滑稽さとは一味違う、おおらか且つしんみりとした感じが漂う。同じ演目も噺家によってこんなにも違うんだね。「抜け雀」の絶品はやはり志ん朝のコレ↓。


ぬけ雀 古今亭志ん朝 - YouTube

 その他。小里ん「手紙無筆」、古今亭菊丸「親子酒」、金馬「豆腐屋の女将と建具屋のはんこう」から「紙入れ」、小金馬「小言念仏」、馬石「鰻屋」、種平「忘れ物承り所」。期待通り、普段と違う雑談というか楽屋話、それに小噺がたくさん聞けたのは初席ならでは。

 

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最後に…。三が日も過ぎ、正月気分もすっかり抜けた頃だったせいか、コレまで見てきた初席とは違った寄席の光景を目の当たりにする。オレがホールに着いた頃(第三部の途中)、客席はほぼ満席だったのに、夜がふけるにつれて徐々に客が帰りだした。トリのさん喬の出番にはなんと二割にも満たない数に減ってしまったのである。数年前に盛り上がった落語ブーム(?)は何だったのか、と思わせる無残な光景。

確かに三が日は過ぎた。平日、しかも夕方から雨も降り出した。とは言え、まだ正月興行中の話である。トリのさん喬も実力では申し分ない。でも地味さと決して高くはない知名度(≒人気度)で客が入らないのかな。いや、そもそも「落語ブーム」などというものがあったのだろうか。それは一部のメディアによるから騒ぎにしか過ぎなかったんじゃなかろうか。あるいは一時的ブームは確かにあったが、その盛り上がりに落語協会、ひいては落語会全体があぐらをかいていた結果がこの現状を招いてしまってるのではないか…。だとしたら、落語協会や寄席にはもっとがんばって欲しい。例えば、昼夜入替のない浅草なら夜割チケットを販売するとかさ。考えてみりゃ、いくら落語が好きでも朝から最終の出番まで聞こうなんて一般人なんていないもの。

と、客が少ないさびしい中、半ばやけっぱちになって一段と大きな拍手を浴びせていたのは何を隠そうこの私です(苦笑)。