空間現代 COLLABORATIONS@SuperDeluxe:その3

f:id:curio-cat:20151118185157j:plain

十月某日

 

最終日。最も期待していた灰野敬二とのコラボ。灰野さんについては何度かこのブログでは取り上げている(なぜ彼は髪を伸ばし続けるのか?:『ドキュメント 灰野敬二』/この深みまで降りて来い:『捧げる 灰野敬二の世界』)。オレが敬愛する音楽家のひとりでもある。天下無双の灰野敬二と2010年代を代表する空間現代。それぞれ単独で聞いても興奮するのに、この二組が合体したらいったいどうなるのだろう。

期待が高まる中演奏開始。いきなり灰野のギターに打ちのめされる。うん、この金属的で鋭利なギターの音は空間現代の硬質で重いビートと相性ばっちりだ。そこまでは予想していた。しかし、この日灰野が披露した横笛も、灰野の祈祷とも呪術とも言える非日常的な叫びまでもがこれほど空間現代の演奏と共鳴するとは。

基本的には空間現代の楽曲の上を灰野が即興で自由に泳ぎまわる感じだが、灰野がやみくもに演奏するはずがない。たしか彼らは過去にも一度共演してたはず。すでにお互い勝手はわかっているだろう。百戦錬磨の灰野の鋭い嗅覚と感性で堅固な空間現代の砦を崩しにかかる(笑)。

時にリズムに合わせ、また時にリズムなどまったく無視しているかのようだが、はっとするような“間”が訪れる瞬間がある。この間の捕らえ方は「灰野らしさ」としか言いようがない。一時期、不失者で灰野自身がドラムを叩き、そのビートをループさせながらギター演奏していたことがある。その感じに近いか? “間”を創造する灰野と“同期とズレ”をコントロールする空間現代。ノイジーな音塊とズレたビートが見事に溶け合い調和していく。今までに見たことのないような濃密な即興演奏! なんて美しい光景なんだ!!

f:id:curio-cat:20160128195105j:plain

一方、この日はいつもの空間現代とははっきりと違う混沌さとそれに伴う狂乱と興奮があった。三日連続で彼らを見て思ったんだけど、通常はきっちりタイミングを合わせてくる彼らのストイックに抑制された演奏が、この日はかなりラフに、もっと言えば弾んでいるように聞こえた。そのラフさはヴォーカルについても言える。野口の素っ頓狂なヴォーカルはいつもは無意味かつ無感情に(良い意味で)聞こえる。が、この日はなんかちょっぴり熱かった(灰野さんのあの叫びを真横で聞いてるんだからな:笑)。単なる錯覚かもしれないけど、そう錯覚させたのはまさに彼らの熱い演奏だった。

灰野の懐の深さ、豊穣な音楽に身を委ねて空間現代の演奏はかなり引っぱられてたんじゃないかな。知っての通り空間現代の魅力のひとつはミニマリズム、精巧なビートの反復にある。それが灰野の神がかりなサウンド、枠にはまらない、と言うか枠を飛び出したリズムに彩られると、また違った魅力を放つ。バグやエラーをモチーフとしていながらも人力で作り出す空間現代の音はデジタルとは明らかに異なる有機性がうかがえる。そこに生まれる詩情、叙情が今回より鮮明に浮き彫りになったのではないだろうか。

最後に三日間の感想まとめ…。それぞれに異なったアプローチは飽きさせないどころか、毎回発見があり楽しめた。オレ的に非常に有意義なイヴェントでした。空間現代の音楽を単純にカッコいいとか、ビートによる快感等の理由で聞いてきた部分がこれまでにはあった。しかしその一方、何かが引っかかる、なぜか引き込まれるといった不思議な魅力も感じている。それが何なのか、今回「解体・拡張・越境」したことによってちょっとだけわかったような気がする。このバンドはオレが思うよりもずっと可能性を秘めている。引き続き彼らの活動には注目していきたい。

f:id:curio-cat:20160128194704j:plain