鈴木昭男+齋藤徹、10年振りの共演:JOLT@六本木スーパーデラックス

八月某日

JOLTというイヴェントに行ってきた。

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出演:
鈴木昭男 + 齋藤徹
IF I COULD SING (feat. The BOLT Ensemble, from Australia)
中村としまる + 広瀬淳二 + 山本達久
永田砂知子 + chiharu mk + 中山晃子 (alive painting)

DJ:
Evil Penguin

 目玉はもちろん十年振りとなる鈴木昭男と齋藤徹の共演。鈴木は音楽というものを通常の演奏や作曲だけでなく、自然音や物音などあらゆる側面から捕らえアートとして提示する唯一無二の音楽家にして演奏家。アナラポスを代表とするユニークな自作楽器による演奏が有名。ライヴ演奏もするがインスタレーション作品も多い。昨年は、ICCで彼のインスタレーション(物音とフィールド・レコーディング、それぞれをもとに作曲された作品を真暗闇の無音室で聞く)を体験した。生での演奏を見るのは数年ぶりだ。一方の齋藤徹についても過去に何かのイヴェントで見ているはず。何のイヴェントだったかな。即興演奏のフェスか高柳昌行のフィルム上映会だったろか? 昔から名前を耳にする著名なコントラバス奏者ってくらいしか認識ないのだが(失礼)、プロフィールによると単なる即興演奏だけでなく、舞踏、演劇、美術、映像等とのコラボレーションも頻繁に行っているようだ。

この日、台風の影響で会場入りが遅れたという鈴木さん。ゴム長靴を履いたまま登場(笑)。おそらく事前リハもなしで臨んだと思う。そんなアクシデントにも関わらず、ふたりの演奏は期待通りユニークかつ刺激的だった。

アナラポスの神秘めいた音に齋藤さんのフリーキーなコントラバスが呼応する。鈴木さんの演奏は体の奥深くで眠っている音楽を呼び覚ます。肉体と精神が手を取り合って共に舞を踊る。やがてふたつは溶け合ってその境界が消えていく。周囲と自分との境界も薄れて世界と一体化していく。こんな風に書くと、なんか「スピリチュアル系の音楽?」とか思われてしまいそうだが、そうではない。西洋的音楽の聴取する主体と聴取される対象という構図とは違う、アジア的というか、もっと原始的な、おそらく音楽が体系化される前の、自然にもともとある音楽(もちろんそれは人間の内部に備わっているもの)と寄り添い、共鳴するためのきっかけのような音なのだ。

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たぶん…鈴木さんの創り上げる音楽はクラシックやジャズやポップといった「一般的に音楽と呼ばれているもの」とは根本的に異なるのかもしれない。彼の音楽では最初に「音の響き」があり、「音の配列」はあくまでもその「響き」を聴くために組まれているように思える。演奏された音と実際に耳にする音の間には様々な要素が介入するが、彼はそれを型に当てはめて無理やり修復したり、あるいは消し潰したりするようなことはしない。こうしたものに耳を傾け、こうした音と戯れながら音楽を奏でている。

一方、様々なアートフォームとの共演を果たしてきた齋藤さんも音楽を直線的平面的に捉えることはない。コントラバスという西洋音楽のために作られた、古典的楽器でそれに応じるわけだけれど、コントラバスは音もヴィジュアル(フォルムが音に影響するわけだから、これは意外と重要だと思う)も非常に肉体的かつ官能的。魂を揺さぶる鈴木さんの演奏と調和する。また、一パートを担うオーケストラやジャズの演奏では気づかない、この楽器の多用な響きも見せつけられた。体系化されたオーケストラを演奏するために生まれたコントラバスという楽器もやはり、深い部分では本能を呼び起こす力があると感じたりした(考えてみれば昔からコントラバスの音が好きだったことを思い出した!)。

 

鈴木昭男を目当てに行ったのだが、他の演奏もなかなか良かった。

中村としまるは、00年代に大友良英Sachiko Mとの共演で何度も見た。ノー・インプット・ミキシング・ボードという自作の楽器(発信器?)を操りミニマルな即興ノイズを演奏する。こちらもやはり数年ぶりに見る。共演するのは山本達久と広瀬淳二。山本達久は即興ドラマー/パーカッショニストとして様々なプロジェクト共演を行っているが、最近ではジム・オルーク石橋英子らと組んだカフカ鼾が話題となっている。確か映画『私の男』のサントラ(とても良い。映画についての記事はコチラ)の演奏もカフカ鼾のメンバーが参加しているはず。百戦錬磨、それぞれに個性的な音楽家の即興共演は聞き応えあった。中村さんは、オレが以前よく聞いていた当時は意図的に弱音/微音が特徴的だったが、その時よりも音が大きく激しくなったかな。ノー・インプット・ミキシング・ボードという繊細で抑制された音の中から時折凶暴さが顔出す。そうした微妙な変化と振幅に山本さんのドラムが敏感かつ柔軟に応じている。

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永田砂知子もかつてどこかで見たような気がするが、う~ん、記憶が定かでない。調べてみると、デレク・ベイリーのカンパニーにも参加してる。へぇ~。だからというわけではないけど、演奏は素晴らしかったよ。鉄を鋳造して作られるスリットドラム、波紋音での演奏。スティールパンに似た楽器で、こちらの音もどこか原始的な響きをもっている。chiharu mkの電子音響と中山晃子のヴィジュアルとの共演も楽しめた。

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IF I COULD SING (feat. The BOLT Ensemble, from Australia)は初めて聞く名前。まったく知識がないのでスーパーデラックスのサイトから紹介文を引用させていただく。

世界初披露となるオーストラリアの作曲家、ジェイムス・ハリックによるIf I Could Sing(もし歌うことができたなら)は、ボルト・アンサンブルのメンバー(フルート、チェロ、ハープ)と電子音から構成される、再結合されたシンガー・ ソング・ライター経験である。この公演のために特別にプリペアドされたグランド・ピアノを用い、アブストラクトなピアノの響きと拡張されたヴォーカルを野 心的にミクスチャーすることよって、シンガー・ソング・ライターのフォームをさらに押し拡げるもので、作品は以下3つのパートに分かれている。
1. Heracles: I love you despite the gun shots
2. Aphrodite: Working Mum
3. Pan the Man
オーストラリアの新鋭作曲家による、オリジナルでかんぜんに独創的なパフォーマンスである。
joltarts.org

 

ボルト・アンサンブルは、JOLT Arts Inc.のディレクターであり、メルボルン大学MMW(Music, Mind & Wellbeing initiative:音楽への従事と社会福祉向上にかかわる理論的構造の研究プログラム)研究員でもあるジェイムス・ハリックによる、音楽とソニック・ アートのプロジェクト。2004年の結成以来、広範囲にわたってテクノロジーとコミュニティ・ディベロップメントにまつわる活動を続けている。2009 年、ボルト及びアンプリファイド・エレファンツは、ロボティックな機構とリアルタイムのインタラクティヴ・ヴィデオ・スコアを用いた「The NIS」を演奏。近年では「TERRAINS: JOLT Swiss Australian Sonic Festival」(2011年)にてハリックによるアンサンブル作品を初演。また、メルボルンの「ABC Classic FM」協賛による新作をレコーディング(2012年)。
ボルト・アンサンブル Homepage

 紹介文にあるような難しいコンセプトはよくわからないが、声による即興と楽器演奏の組み合わせ、しかもヴォーカリストが独立しているのではなく演奏者が演奏と同時に即興で歌うのが面白かった。

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