相米慎二特集『あ、春』『魚影の群れ』@早稲田松竹

三月某日

相米慎二監督が気になる。映画はまったく詳しくないんだけど、サブカル系の人の多くが彼の作品に高い評価を与えていることや、様々な伝説的エピソード(人気絶頂アイドルに課したサディスティックとも言える過酷な撮影とか?)に加え、敬愛する大友良英が何作品かで彼と組んで音楽を担当していることが気になる理由。実際、オレがこれまでに見た『セーラー服と機関銃』、『お引越し』、『台風クラブ』といった作品はどれも独特の世界観に満ちていて強く印象に残っている。

 

二本立の最初は『あ、春』(1998年公開)を見た。

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舞台が杉並という設定でおそらくロケもその界隈で行われていたのだろう。井の頭公園は明らかにわかった。ストーリーや演技よりも景色にばかり目が言ってしまう・・・。

名優と言われる佐藤浩市だが、個人的にははあまり好きな役者じゃない。なんか役者臭が強過ぎ。どの役を見てもオレの中では“演技してる” (自然じゃない)感じが払拭できない。今回もそうだった。それに比べればまだ斉藤由貴(やっぱりカワイイ。この当時いくつだろ?)の方が自然だった気がする。父親(?)役の山崎努の臨終シーンで腹巻の下で卵を孵化させてヒヨコが表れるシーンに呆れる(苦笑)。富司純子の読み方、いつも混乱する。トシジュンコ? フジジュンコ? 藤純子から寺島純子そして富司純子(現在の正式名:フジスミコ)と何度も改名している。大友さんの音楽はドラマ『あまちゃん』でも聞かれたクレッツマーっぽい曲が随所にあった。

そう言えば相米慎二作品の『あまちゃん』への影響がネット上でよく言われてたね。『あまちゃん』に出演してるのが相米所縁の薬師丸ひろ子小泉今日子、音楽が大友さんだって他に、ドラマの劇中で相米のトレードマーク的長回しシーンを取り入れたりもしてたらしい?

映画全体の感想は・・・最終的に誰もが「いい人」で終わる中途半端なハートウォーミングが生ぬるくて退屈だった。息子や義理嫁と父親の関係や父親の死といったテーマは小津作品をモチーフにしてるのかなともちょっぴり思ったりも…。相米はこんな作品も撮ってるんだな。


 

一方の『魚影の群れ』(1983年公開)は、マグロ漁師の凄惨な生き様に迫った良作だ。

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それだけでなく頑固で寡黙な父親と陽気で健気なひとり娘との親娘関係の微妙さもよく描かれている。緒方拳の渋い演技と夏目雅子の天真爛漫さが効いている。とくに夏目雅子。すべてを吸いこんでしまうような、あの憂いのあるまなざしはどこから来るのか? 当時25歳だったらしい。亡くなるのはそれからわずか2年後。美人薄命。美しさなのか演技力なのかわからないけど、その強烈な存在感にやはりこの人は希代の女優だった、としみじみと感じ入る。

画面から匂いたってくるような大間の漁村の風景も見もの。今でこそマグロ漁ではブランド化するほど有名な大間だが、当時はマグロ漁がどのように行われていて漁師がどんな生活をしてるか、なんてあまり知られてなかったよね。夏目が自転車で行き来するシーンを遠くからヒキで撮ってるところなど村の景色がダイナミックに映し出されている。津軽弁の台詞にしても、実はリアル過ぎて所々聞き取れない部分もあるんだけど、台詞を聞きやすい言葉に変えていないのがよい。

相米のトレードマークである長回しも多用されてる。とくに雨の中、緒方拳が十朱幸代を追いかけるシーンは不自然なほど長い(緒方が十朱になかなか追いつかない:笑)。これ、相米が十朱を延々走らせたいがために設けたシーンなんじゃないか?

落語好きのオレとしては俳優、三遊亭円楽をスクリーンで見られたのも貴重。役も良かったし意外と演技が巧くて驚いた!

 

相米慎二特集すべて見ようと思っていたのだけれど、この作品見たあとでは『翔んだカップル』はどうも見る気がせんなぁ・・・う~む。